実際の治療例 “胃腸炎を起こした後からずっと胃の調子が悪い”
当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
30代 男性 胃腸炎を起こした後から胃の調子が悪い
【症状】
半年ほど前に3日間ほど水下痢の症状があり、職場近くの内科で感染による胃腸炎と診断され投薬治療を受けました。
下痢の症状は数日で落ち着いたものの、その後から胃の鈍痛や胃の気持ち悪さ・吐き気・張る感じが続き、内科で胃薬を処方されたものの改善がなく、
消化器内科を紹介され胃カメラ(胃内視鏡)を受けましたが異常はなく、機能性ディスペプシアと診断され、同院で投薬治療を続けるも症状が続くとのことで当院を受診されました。
【診察】
機能性ディスペプシアとは、食道や胃・十二指腸・その他の内臓に病気がないにも関わらず、胃の機能の異常(胃酸の分泌・弛緩や排出などの胃の運動)や食道・胃の粘膜の知覚過敏などで、胃痛・張り・もたれ・吐き気などが起こる状態です。
ただし、胃痛・張り・もたれ・吐き気などの症状は、胃の病気以外にも膵臓などの消化器系の疾患や甲状腺疾患などの内科疾患でも起こるため、まずは腹部エコー・甲状腺関連の血液検査などを行いました。
【検査】
血液検査や腹部エコーは問題なく、やはり機能性ディスペプシアの可能性が高いと考えました。
【治療】
機能性ディスペプシアは胃の機能の異常に対して治療を行います。
胃の機能には、
- 胃酸の分泌(胃酸が過多になると粘膜を刺激し、違和感・不快感・痛みの原因になります)
- 食べ物の排出などの運動(胃の排出機能や弛緩機能が落ち、もたれ・はり・吐き気・食欲不振などが起こります)
があり、まず使用する薬としては、
- 胃酸分泌過多を抑える制酸剤
- 胃の粘膜を保護する粘膜保護剤
- 胃の動きを改善する機能改善薬
などを用います。
今回の胃の鈍痛は食後の胃酸分泌過多、胃の気持ち悪さ・張る感じは胃の動きの低下が考えられるため、
過剰な胃酸を抑える薬(1に該当)と動きや排出機能や動きを改善する機能改善薬や漢方(3に該当)
を処方して経過をみることとしました。
投薬後症状は半分程度までよくなったとのことで、4週間ほど続けて使用してみましたが完全には症状が取れないまま頭打ちとなりました。
感染性胃腸炎後には粘膜の微小炎症(胃カメラでは異常がないように見えても生検すると顕微鏡検査で炎症がある状態)を生じていること2)や、胃腸の細菌叢の変化を来し、機能性ディスペプシアを起こしやすくなることがあると言われています1)。
そのような微小炎症がある場合には抗炎症薬が有効な場合があり、胃カメラを再度施行し、粘膜の微小炎症の有無の確認を行うこととしました。
実際の胃カメラの画像です。
通常の観察ではやはり異常はありませんでしたが、生検を行い顕微鏡で粘膜を観察すると微小炎症を認めました。
そこで微小炎症に対して抗炎症薬、細菌叢の変化に対して当院オリジナルサプリのi-katsuを使用し治療を継続しました。
※i-katsuに含まれる胃の乳酸菌と生薬は、胃酸の分泌過多を適正化する作用・胃の動きを改善する作用を持っており、当院では機能性ディスペプシアの方の治療に用いており高い効果をあげています。
投薬開始後2週間ほどすると症状がかなり改善し、さらに2週間後には症状はほとんどなくなっていました。
薬を一旦やめてみることを勧めたところ、ご本人より症状の再発が怖いとのことでi-katsuと漢方をを続けていただくこととし、その後も症状は落ち着いており安定しております。
今回使用したサプリ“i-katsu”は薬と違った作用で機能性ディスペプシアに効いてくれるため、
- 薬が効きにくい方
- 薬をやめると症状がぶり返す方
- 薬を飲むのに抵抗がある方
- 薬で効果が不十分な方
に薬と合わせて飲んでいただいたり、薬の代替治療として使用しております。
また副作用が出にくいという点から、安全に長期服用ができるため症状改善後の予防治療にも積極的に用いております。
※i-katsuを用いた今回以外の治療は「i-katsuの治療例」にてご覧いただけます
感染性腸炎後の機能性ディスペプシアの治療で効果が不十分な際には、今回のように微小炎症の治療や細菌叢へのアプローチで改善が得られることが多々あります。
機能性ディスペプシアの症状でお悩みの方は是非ご相談下さい。
機能性ディスペプシアのQ&A
- Q:機能性ディスペプシアの頻度はどのくらいですか?
- Q:機能性ディスペプシアの診断に内視鏡(胃カメラ)やピロリ菌・腹部エコーの検査は必要ですか?
- Q:機能性ディスペプシアは家族歴や遺伝的な要因が関連しますか?
- Q:胃腸炎や食あたりを起こした後に機能性ディスペプシアになることがありますか?
- Q:機能性ディスペプシアになるのはどんな人ですか?
- Q:機能性ディスペプシアは難病指定ですか?
- Q:機能性ディスペプシアで食べてはいけないものはありますか?
- Q:機能性ディスペプシアは自律神経と関係がありますか?
- Q:機能性ディスペプシアを放っておくとどうなりますか?
- Q:機能性ディスペプシアは治らないと言われましたが、本当ですか?
Q:機能性ディスペプシアの頻度はどのくらいですか?
A:日本人の約10%程度に見られ、実際に上腹部の症状で受診された方の45~53%程度が機能性ディスペプシアと言われています。
頻度的にはよくある病気ということができますが、逆に言うと症状がある方の半分は何らかの病気が潜んでいるということであり、診察や検査を行いしっかりと診断をつけることが重要です。
Q:機能性ディスペプシアの診断に内視鏡(胃カメラ)やピロリ菌・腹部エコーの検査は必要ですか?
A:基本的には必要と考えます。
機能性ディスペプシアにみられる胃痛や胃もたれ・吐き気などの症状は、胃がんやピロリ菌感染などの胃の疾患や、胆石・膵炎・甲状腺疾患などの他の病気でも起こりうるため、胃カメラやピロリ菌検査・腹部エコー・血液検査などを行いそれらの病気をきちんと否定しておくことが重要です。
Q:機能性ディスペプシアは家族歴や遺伝的な要因が関連しますか?
A:関連すると考えられています。
機能性ディスペプシアは家族歴があることが示唆されており、また様々な遺伝子多型が関連しているとの報告があり、発症しやすい家系や遺伝子があると考えられています。
Q:胃腸炎や食あたりを起こした後に機能性ディスペプシアになることがありますか?
A:あります。
胃腸炎による下痢や嘔吐などの症状や炎症自体が改善したにも関わらず、胃もたれや食欲不振などの症状が続くケースが報告されており、感染後機能性ディスペプシアと呼ばれています。
時に胃腸炎が治っていないと誤診されてしまい誤った治療が続けられ一向に症状が改善しないケースなどもあり、適切な治療を受けるため胃腸の専門で診察を受けることが大切です。
Q:機能性ディスペプシアになるのはどんな人ですか?
A:ストレスが多い方、運動不足、睡眠不足、高脂肪食や香辛料を好む方、飲みすぎ食べ過ぎのライフスタイル、抗不安剤・抗うつ剤、胃腸炎への感染などが機能性ディスペプシアを引き起こす要因や増悪因子となります。
上述のような外的な要因に加え、ご自身の体質的な要因が組み合わさって機能性ディスペプシアが起こります。
※機能性ディスペプシアを引き起こす要因としてわかっているもの※
体質的な要素
・遺伝的要因2)
・生育環境3)
・胃の形4)
・胃内細菌叢5)など)
外的な要因
・ストレス6)
・感染性胃腸炎7)、
・運動・睡眠不足8)
・食事内容(高脂肪食・香辛料)や食習慣(食べ過ぎ)などのライフスタイル8)
・薬剤(抗不安薬・抗うつ剤など)
Q:機能性ディスペプシアは難病指定ですか?
A:機能性ディスペプシアは厚生労働省の定める指定難病ではありません。
機能性ディスペプシアは良くなったり悪くなったりを繰り返して、なかなかすっきりと改善しない病気ですが、指定難病にはなっていません。
Q:機能性ディスペプシアで食べてはいけないものはありますか?
A:高脂肪食や香辛料、アルコール・カフェインなどは悪化させる可能性があります。
また食べ過ぎや飲みすぎなどの食習慣も増悪させることがあるため、規則正しい食生活が大切です。
Q:機能性ディスペプシアは自律神経と関係がありますか?
A:関係があります。
もともと、胃や腸などの臓器は自分で動かそうと意識しないでも勝手に動いている臓器で、この動きをコントロールしている神経を自律神経と言います。
ストレスや疲れ・不規則な生活(アルコール・不眠・疲れ)などの外的な要因が加わると、自律神経の乱れが生じたり、胃の粘膜に負担がかかることで胃が機能異常を来し、胃酸分泌過多や胃の排出機能の低下や膨らみの低下といった運動異常が起こります。
また、胃や腸の粘膜は非常にデリケートなので、ストレスなどの外的要因によって知覚過敏になることもあり、通常の胃酸の刺激や腸の動きを違和感・痛みと誤認してしまうこともあります。
このような胃酸分泌過多や胃の運動異常・知覚過敏によって胃痛・胃もたれ・早期飽満・不快感といった機能性ディスペプシアの症状が発症します。
Q:機能性ディスペプシアを放っておくとどうなりますか?
A:症状が進行することで日常生活に影響が出ることがあります。
機能性ディスペプシアはガンなどの悪性疾患になることはありませんが、食事がとれないなどの日常生活に差支えが出たり、機能性ディスペプシアの症状がストレスになりうつ病などの精神面に影響することがあります。
症状でお悩みの場合は放置せずに医療機関で治療を受けることが大切です。
Q:機能性ディスペプシアは治らないと言われましたが、本当ですか?
A:しっかりした治療・習慣の改善を行っていくことで治療することは可能です!
機能性ディスペプシアによって引き起こされる胃痛・吐き気・むかつき・食欲不振などの症状は投薬治療にて抑えていくことができますが、繰り返しやすい疾患ではあります。
(実際に機能性ディスペプシアは一旦改善しても、20%程度の再発があるとのデータがあります13)
発症や再発にはストレスや食生活などが関わってきますので、ストレス因子の改善や生活習慣を改善することも大切です。
また、同じようなストレス環境や生活習慣であっても、機能性ディスペプシアになる方・ならない方がいるのは胃内細菌叢・遺伝的素因・胃の形などの体質が関わってきます。
そのような体質的な部分を改善するために、漢方やサプリを使用して繰り返さないようにするための予防治療も行っております。
文責:巣鴨駅前胃腸内科クリニック院長 神谷雄介
(消化器学会・内視鏡学会専門医)
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参考文献
1)Talley NJ, Walker MM, Aro P,etal : Non-ulcer dyspepsia and duodenal eosinophilia : an adult endoscopic population-based case-control study.Clin Gastroenterol Hepatol 5 ; 1175―1183 : 2007
2)Futagami S, Itoh T, Sakamoto C : Systematic review with meta-analysis : post-infectious functional dyspepsia. Aliment Pharmacol Ther 41 ;177―188 : 2015