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感染性腸炎(急性胃腸炎)

 

感染性腸炎とは? 

感染性腸炎とは、細菌やウイルスなどが口から入ることによって起こる腸炎です。

嘔吐や下痢を伴うことが多く「嘔吐下痢症」と呼ばれたり、急激に発症することから「急性胃腸炎」などと呼ばれることもあります。

身近なものであると、カキなどの2枚貝を食べた後に起こる「ノロウイルス」による嘔吐下痢症も感染性腸炎の中の一つです。

 

原因は?

①食中毒

汚染された食物を十分な加熱なしで食べてしまうと、付着している菌やウイルスから感染します。

・焼肉(大腸菌など)

・焼き鳥(カンピロバクター) 

・カキ(ノロ) 

・魚介類(ビブリオ) 

・痛んだおにぎりや弁当(ブドウ球菌) 

また、海外の途上国の水なども注意が必要です。

 

②人からの感染

感染者の吐物や下痢などから移ってしまうことがあります。

ですので、ご家族や会社で共用のトイレの使用、トイレ後のタオルの共用などは注意が必要です。

また、ウイルスや菌が手についた状態で調理した料理などからも感染することはあり、手洗いもしっかりと行う必要があります。

 

症状は?

・吐き気・嘔吐

・下痢(軟便~水様性) 

・時に腹痛・発熱・血便

菌やウイルスの潜伏期間があるため、早いもので2時間・長いものだと1週間経ってからの発症することもあります。

黄色ブドウ球菌:2-3時間 ビブリオ:6-12時間 ノロ:1-2日 大腸菌(O-157など):2-5日 カンピロバクター:2-7日 

 

検査・診断法は?

便培養:便中の菌を調べる検査です。検査結果に1週間かかりますが、症状が長引きそうなときやO-157などの激しい腸炎の時は有効です。

血液検査:腸炎の炎症の程度を調べます

腹部エコー・レントゲン:腸管の浮腫んでいる部位や状態を見て感染菌やウイルスを予想します。

また、他の腸炎(虚血性腸炎潰瘍性大腸炎・クローン病など)の可能性がないかのチェックも行います。

 例)カンピロバクター腸炎のエコー像です。

エコーで上行結腸に全周性壁肥厚を認めました。範囲は広範で、特に粘膜下層の肥厚が目立つため、全体的に白っぽく描出されています。

問診で3日前に鶏肉を食べたというお話と、エコー所見からカンピロバクター腸炎を疑い治療を行いました。(後日にわかった便培養の結果でカンピロバクターが検出されました。)

 

・大腸内視鏡(大腸カメラ):直接大腸の状態を見て状態を評価します。

感染性腸炎の際にはいきなり大腸内視鏡を行うことは少ないですが、以下の場合には内視鏡を行うことがあります。

実際に他院で感染性腸炎と診断され治療を受けても改善なく、検査してみると潰瘍性大腸炎だったというケースもあります。

 

 

関連ページ:腹部エコー 大腸内視鏡(大腸カメラ) 虚血性腸炎 潰瘍性大腸炎・クローン病

 

治療は?

治療内容;

・安静

・水分摂取(OS-1、スポーツドリンク)や点滴

・薬(吐き気止め・軽い下痢止め 整腸剤)

・抗生剤(細菌感染を疑うとき)

・食事制限(消化の良いもの:おかゆ、素うどん、ゼリーやプリン、果物など)

で経過をみます。

 

治療期間;

通常は3-4日で落ち着くことがほとんどです

ただ、O-157やサルモネラ、カンピロバクターなどは時に重症化することがあり、そのような菌の感染が疑われた場合には慎重に経過を診ます。

※治るまでの目安 : 黄色ブドウ球菌:吐き気中心で1-2日 ノロ:1-3日 ビブリオ:2-3日 カンピロバクター:2-5日 O-157:5-7日

 

実際の治療例

①20代 男性 腹痛・嘔吐・下痢

【症状】

前日夜からの突然の腹痛と嘔吐・下痢を主訴に来院されました

 

【診察】

触診では臍中心に痛みがあり、前日に貝を食べたとのことからウィルス性の小腸炎を疑い検査を行いました。

 

【検査】

腹部レントゲンで小腸ガスを認め、腹部エコーでは小腸液の貯留と浮腫みを認め、小腸炎と診断しました。

 

【治療】

ウィルス性の小腸炎は、ウィルスに直接効果のある薬はなく、症状を和らげる薬を使いつつ、自己免疫でウイルスが排除されるのを待つ、という形になります。

基本的には吐き気は半日程度で落ち着き、下痢や腹痛も2-3日で落ち着くことが多いです。

 

<治療内容>

①内服治療;整腸剤 漢方薬

嘔気・嘔吐・下痢・腹痛といった胃腸炎症状を和らげます。

②食事指導

小腸が炎症を起こしている間は食べ物の消化吸収や通過がうまくいかず嘔吐や下痢を起こします。そのため食事も生ものやアルコールをさけ、消化しやすいものを召し上がっていただきました。

 

【経過】

受診後、昼と夕方に服薬をすると、嘔気は消え腹痛もかなり和らいぎ、翌日には下痢の回数も半分ほどとなり、3日目にはほぼ改善したとのことでした。1週間後の再診の際には症状は完全に改善しており、終診としました。

 

②40代 女性 腹痛・下痢が治らない

【症状】

5日ほど前に発熱と腹痛と水下痢があり、翌日に近くの内科を受診し胃腸炎と診断され整腸剤の処方となりましたが、全然治らないとのことで当院を受診されました。

 

【診察】

触診では下腹部に痛みがあり、水下痢はまだ1日10回以上続いている状態でした。

発熱を伴っていたこと・症状が長引いていることなどから細菌性の感染性腸炎を疑いました。前医では特に検査をしておらず、腹部エコーやレントゲン・血液検査で状態を評価してみることとしました。

 

【検査】

腹部エコーで右大腸中心に炎症像および血液検査にて炎症反応の上昇があり、中等度の大腸炎と診断しました。

上行結腸の画像です。 水色矢印の範囲で腸管が浮腫み 粘膜下層が炎症で白く見えます (黄色矢印)

 

【治療】

右中心に起こる急性の大腸炎はカンピロバクターや病原性大腸菌による細菌感染が多く、主に食中毒が原因となります。

食中毒の場合は潜伏期間があり、食べてすぐ発症することもあれば1週間くらいたってから発症する場合もあります。

 

今回も問診で確認すると、最初に症状がでた日の4日前に鶏の刺身を食べたとのことで、カンピロバクター腸炎を考え治療を行いました。

 

<治療内容>

①内服治療;整腸剤 漢方薬

下痢・腹痛といった胃腸炎症状を和らげます。

②抗生剤

菌を倒すために使用します。細菌性の腸炎に対して、炎症反応や症状が強い場合に用います

③食事指導

大腸炎の場合は水分が吸収できずに激しい水下痢を起こしてしまいます。そのため水分摂取はOS1やポカリスエットなどの体に吸収されやすいもの、食事はおかゆなどの消化しやすいものを召し上がっていただきました。

 

【経過】

受診後2日ほど症状が続きましたが、3日目くらいから次第に和らぎ5日後に再診頂いた際にはほぼ改善している状態で、整腸剤を数日間継続していただく形で終診となりました。

細菌性の腸炎は症状も激しく長引くことが多く、また激しい胃腸炎後は過敏性腸症候群になるリスクがあることが分かっており1)発症初期段階でしっかりと診断し適切な治療を行うことが大切です

 

参考文献:

1)Barbara G, Grover M, Bercik P, et al. Rome Foundation working team report on post-infection irritablebowel syndrome. Gastroenterology 2019; 156: 46-58.e7 , 過敏性腸症候群ガイドライン2020:p5-6

一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65

 

Q&A

Q:人から人に移りますか?

A:移る場合があります。

感染性腸炎の原因は、病原体が口から入ってきて起こる“経口感染”で発症します。

大部分は食品から感染する食中毒ですが、以下の場合などに人から移る場合もあります。

 

・感染者の吐物や便に触れた手で口元を触ったりする場合

感染者の吐物や糞便を処理する際に、手についてしまい、手洗いが不十分だと、病原体が口に入ってしまい感染することがあります。

・感染者の手洗いが不十分な場合

病原体が手に付着したまま共有のタオルやドアや家具を触れ、その病原体を付着したものを他の人が触れ、そこから口を触りにうつるケースも考えられます。

また、感染者が手洗い不十分な状態で食品を触ったり、調理を行い、それを食べてしまうことで発症することもあり得ます。

・病原体が舞い散る場合。

感染者の便や吐物を放置し乾燥させてしまうと、病原体が空気中に舞い散ってしまい、その空気を吸い込むことで感染することもあります。

 

Q:仕事はできますか?

A:内容によって変わってきます。

通常の感染性腸炎の場合は、法律上の就労停止などはありませんが、しっかり休養を取った方が体調面ではよいと思われます。

ただし、飲食業や食品関係の仕事について国は、

「責任者に対し“直に調理、加工、製造する者(食品取扱者)”に嘔吐下痢などの症状があれば、感染性胃腸炎の有無を確認すること。

ノロウイスを原因であった場合は、 リアルタイムPCR等の好感度の検便検査でノロウイルスを保有していないことが確認されるまで、食品の取り扱いに従事させないよう処置をとることが望ましい」

と指導していますので、基本的には症状が改善し、病原体が消失するまでは休養が必要と考えます。

 

文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)

 

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