炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)外来
<目次>
2.原因は?
3.症状は?
4.検査は?
5.治療は?
7.実際の治療例
8.Q&A
※当院は東京都難病指定医療機関及び難病指定医です。
※現在クローン病の患者様の新規受け入れは一時中止しております。
1.炎症性腸疾患とは?
大腸や小腸などの消化管の粘膜に原因不明の慢性的な炎症をひきおこす疾患を炎症性腸疾患と呼びます。疾患としては“潰瘍性大腸炎”と“クローン病”があります。
潰瘍性大腸炎は22万人以上、クローン病は7万人以上の罹患者がいると言われており1)、比較的若年に発症するのも特徴で,10 歳代後半から 30 歳代前半に好発します2)。
いずれの疾患も原因不明であり、根本的に治す治療が未だにありません。生涯を通して病気をコントロールしていく必要があるため、指定難病とされており、長期の療養を必要とするため医療費の経済的負担に対しての支援が受けられます。(詳しくは6.難病医療費助成制度とは?をご参照ください。)
大変な病気ではありますが、上手く付き合っていくため一緒に治療を行っていきましょう。
参考文献:1)Murakami Y, Nishiwaki Y, Oba MS, et al. Estimated prevalence of ulcerative colitis and Crohnʼs disease inJapan in 2014: an analysis of a nationwide survey. J Gastroenterol 2019; 54: 1070-1077
2)厚生労働省難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp
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2.原因は?
炎症性腸疾患は、体の免疫機構の異常によっておこっています。
私たちの体の中にはウイルスや細菌が体内に侵入した際に攻撃する免疫細胞(白血球など)がありますが、この細胞が腸や本来共存すべき腸内細菌に対して攻撃的に働いてしまい、腸の粘膜に慢性的に炎症が引き起こされます。
ただ、なぜ免疫機構の異常が起こるかということは、はっきりと分かっていません。
最近の研究では、食事内容1)、遺伝子の関与2)や腸内細菌叢の変化3)などが要因になりうるのではということが言われています。
参考文献:1)Sakamoto N, Kono S, Wakai K, et al. Dietary risk factors for inflammatory bowel disease: a multicentercase-control study in Japan. Inflamm Bowel Dis 2005; 11: 154-163
2)Jostins L, Ripke S, Weersma R, et al. Host-microbe interactions have shaped the gene archiyecture of
inflammatory bowel disease. Nature 2012; 491: 119-124
3)Morgan XC, Tickle TL, Sokol H, et al. Dysfunction of the intestinal microbiome in inflammatory bowel disease and treatment. Genome Biol 2012; 13: R79
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3.症状は?
腸の慢性的な炎症なので、下痢や血便がよく見られますが、潰瘍性大腸炎とクローン病で症状がやや異なります。
また、腸管以外の症状として、関節炎、皮膚症状(結節性紅班・壊疽性膿皮症)・眼炎などがあります。
<潰瘍性大腸炎>
・下痢、粘血便などの便通異常
・良くなったり悪くなったり慢性的に経過することが多い。
・直腸の知覚異常(便なのかガスなのか分かりにくくなる)
※悪化してくると、腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血などが起こる
<クローン病>
・腹痛
・下痢
・痔ろうなどの肛門病変
・体重減少
・発熱
・口内炎
※悪化すると、腸管の狭窄・腸閉塞、腸穿孔、大量下血をきたすことがある。
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4.検査は?
診察の上、必要に応じて下記の検査を行います。
炎症性腸疾患の診断には、他の病気がないかをチェックして診断する「除外診断」が必要となるため、様々な検査を組み合わせます。
<血液検査>
炎症の程度や、栄養状態、貧血の有無などを確認します。
また、腸炎の合併を調べるためサイトメガロ抗体・抗原などの感染症関連の項目を調べることもあります。
<腹部レントゲン・エコー>
腸管の狭窄や異常なガス貯留がないかの確認を行います。
一般にエコーは腸管のガスが邪魔をしてしまい観察には向かないと言われていますが、炎症性腸疾患では腸の壁が浮腫み、腸液が貯留しガスが減ります。周りの腸間膜へも炎症が広がり、周りの腸からも浮き上がって観察されるため、病気がある場合は状態を観察することが可能になります。
腸管の観察には経験と技術を要しますが、当院では消化器のエキスパートが検査を担当するため、エコーでの状態評価ができます。
エコーは体に負担をかけずに外来ですぐに簡単に行えるため、非常に有効です。
<便培養>
炎症性腸疾患と感染による腸炎との区別をつけるため、便の中に病原性のある菌(O-157やカンピロバクターなど)の繁殖がないかを調べる必要があります。
<大腸内視鏡(大腸カメラ)>
炎症性腸疾患が疑われた場合は、大腸カメラを行い診断を確定させます。
大腸の粘膜を直接観察することで、炎症の程度や範囲を確認し、場合によっては粘膜を生検し細胞レベルでの変化をみます。
また、診断後も治療の効果判定や発がんのチェックを行うために大腸カメラは非常に重要です。
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5.治療は?
炎症性腸疾患は、原因が分かっておらず根本的な治療が難しいため、腸の粘膜に起こった炎症を抑え込み、腸を普通の状態に戻すこと(=寛解)が治療の目標になります。
ただ、炎症性腸疾患は寛解・再燃を繰り返すことも特徴の一つであり、寛解になったからといって治療終了ではなく、寛解期を維持してくため薬を続けて、病気をしっかりとコントロールしていく必要があります。
治療法は、潰瘍性大腸炎とクローン病で異なります。
<潰瘍性大腸炎>
潰瘍性大腸炎は直腸から口側に広がっていきます。病気の広がりの範囲により3タイプに分かれ、また重症度によって軽症・中等症・重症に分けることが出来、治療法が変わってきます。
軽症の方は5ASA製剤(後述)の内服や直腸炎型の方には座薬・注腸を用い、基本的に食事の制限はありません。
悪化した場合や治療に反応がない場合は、免疫を抑える内服薬の追加や血球成分除去治療(G-CAP療法)・生物学的製剤の投与を行います。
重症の場合は入院しての絶食の上、強力な治療がが必要になります。
また、最近では、便移植といった新しい治療や漢方薬による治験も行われており、結果が待たれます。
当院で行っている治療としては下記のようなものがあります。
ご本人の潰瘍性大腸炎の範囲・重症度と、治療による副作用などを考慮し、どの治療を選択するかを患者さんと相談しながら一緒に考えていきます。
【内服薬治療】
・5-アミノサリチルサン(5-ASA)製剤
潰瘍性大腸炎の治療のベースとなる薬です。大腸の粘膜に直接作用して炎症を抑えます。
軽症から中等症の潰瘍性大腸炎の半数以上の方がこの薬の内服のみで寛解導入が可能です。
ごく稀に発熱などのアレルギー反応がでますが、他の薬剤に比べ副作用があまりないのも特徴です。
炎症の場所がお尻から近い直腸付近までに限局している直腸炎型には、座薬や注腸療法を行います。
・免疫調節剤 (チオプリン製剤 薬品名:アザニン・イムラン)
炎症を起こしている免疫細胞を抑える薬です。再燃予防効果がありますが1)、非常にゆっくり効いてくる薬で1-2か月して効果が出始めます。
副作用としては、骨髄抑制、肝機能障害、膵炎、消化器症状(吐き気など)、脱毛、などがあります。
それらのチェックのため、内服開始後しばらくは定期的な血液検査を行います。
ただ、現在は副作用を事前に予測するための血液検査(NUDT15遺伝子多型検査)も外来で測定可能になり、より安全に投薬できるようになりました。
また、入院し血中濃度を測定しながら投薬を行うタクロリムス(プログラフ)という薬剤もあり、こちらの投薬が必要な場合には対応可能な連携病院にご紹介しています。
参考文献:1)Powell-Tuck J, Bown RL, Chambers TJ, et al. A controlled trial of alternate day prednisolone as a maintenance treatment of ulcerative colitis in remission. Digestion 1981; 22: 263-270
・ステロイド
こちらも免疫細胞を抑え炎症を落ち着ける作用があります。効果は迅速ですぐに効いてきますが、その分副作用も多彩です。
ただ、副作用はあっても、炎症が強く迅速に寛解導入を目指す場合には必要になってきます。
ステロイドには寛解を維持する効果はないので1)、寛解導入後は速やかに減量し最終的には中止します。
参考文献:1)Powell-Tuck J, Bown RL, Chambers TJ, et al. A controlled trial of alternate day prednisolone as a maintenance treatment of ulcerative colitis in remission. Digestion 1981; 22: 263-270
【坐剤・注腸製剤】 病変の範囲が直腸からS上結腸までの肛門に近い病変に用います。
・5-アミノサリチルサン(5-ASA)製剤座薬
当院ではペンタサ坐剤を用いており、直腸病変に有効性が高い製剤です。
・ステロイド座薬
以前は座薬や液体の注腸を使っておりましたが、最近ではレクタブルというスプレー式の注腸製剤が使用可能になっています。1回スプレーをプッシュするだけで直腸からS状結腸に到達する泡状の製剤です。泡状のため粘膜にしっかりと付着し作用しやすく、肛門から製剤が漏れにくいという特徴があります。
レクタブルは副作用が出にくいという特徴もあります。レクタブルに含まれるステロイドはブデソニドというタイプのもので、従来のステロイドと違い肝臓ですぐに分解されるため、8週間程度の短期間の使用なら全身への副作用はほとんどありません。
【血球成分除去治療(G-CAP療法)】
先に記載したように、潰瘍性大腸炎は免疫細胞である白血球などの血球成分が、腸自体や腸内細菌を敵と誤認し攻撃してしまい、腸に慢性的な炎症をおこします。
血球成分除去治療は、この血液中の白血球などの成分を取り除き、炎症を抑える治療法です。
血液の一部を体外へ取り出し、フィルター(アダカラム)を通すことで活性化した白血球を取り除いた後、再び体内に戻します、その後 血液を体内に戻します。
1回約60分の治療で、潰瘍性大腸炎では週に2回、計10回を行います。
※血球成分除去治療は、週 2 回の集中療法では週 1 回より寛解導入までの期間が短く寛解率も向上するというデータがあるため1)、当院では週2回以上のペースで行うことが多いです。
この検査はステロイドと同等以上の効果が期待でき、かつ安全性が高いのが特徴です2)。(薬と違うので副作用がほぼありません。)
また、ステロイドを使用していない方が効果が出やすい傾向があるため、当院の方針としては、ステロイド投与前に先行して行うことが多いです。
ただ、自宅ではできないのでクリニックに来院する必要があります。当院では土日も対応し、平日に時間がとりにくい方にも受けて頂きやすい環境を整えております。
参考文献:1)) Sakuraba A, Motoya S, Watanabe K, et al. An open-label prospective randomized multicenter study showsvery rapid remission of ulcerative colitis by intensive granulocyte and monocyte adsorptive apheresis as compared with routine weekly treatment. Am J Gastroenterol 2009; 104: 2990-2995
2)Yoshino T, Nakase H, Minami N, et al. Efficacy and safety of granulocyte and monocyte adsorption apheresis for ulcerative colitis: a meta-analysis. Dig Liver Dis 2014; 46: 219-226
【免疫抑制剤】
粘膜に炎症を起こしている過剰な免疫反応を抑える薬です。内服治療や座薬・注腸治療で寛解や維持ができない場合に使用します。
内服・皮下注射・点滴製剤があり、効果が出るまでの時間や投与期間に差があったりするため、個々の病状に合わせて選択していきます。
①TNFα阻害薬
「TNFα」という炎症反応に関与する生体内物質の働きを抑える製剤です。
「TNFα」はもともと人の身体に存在するものですが、炎症性腸疾患では異常に増加しており、炎症の場で中心的に働いていると考えられています。
2022年6月の段階では、点滴製剤(レミケード)と皮下注射(ヒュミラ・シンポニー)の3種類があり、症状や希望の投与法に合わせて使用します。
②α4β7インテグリン阻害薬
こちらも炎症反応の発現に関与する活性化リンパ球上のα4β7インテグリンと結合し働きを抑制する薬です。
エンタイビオという点滴製剤とカログラという内服製剤があります。
腸管の免疫を選択的に抑えるため、全身性の感染症のリスクは他の製剤に比べて低いという特徴があります。
③JAK阻害薬
炎症を引き起こすサイトカインという物質の働きを抑える薬になります。
現在、潰瘍性大腸炎に使用できる製剤はゼルヤンツ・ジセレカ・リンヴォックの3種類があり、いずれも内服薬という特徴があります。
④ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤
炎症を起こすもとのひとつであるIL(インターロイキン)-12, IL-23という物質の作用を抑える薬剤です。
ステラーラとい薬剤で、2020年4月より潰瘍性大腸炎でも使用可能となりました。
初回は点滴で注射し、2回目は8週後に皮下注射、以降12週毎に皮下注射を維持治療として行います。効果が弱い場合は8週毎の皮下注射を行います。
いずれも粘膜に炎症を起こしている過剰な免疫を強力に抑えることができ、効果も期待できるのですが、副作用として感染に弱くなるといったデメリットもあります。
そのため体内に結核やB型肝炎などがある場合は再燃の可能性があり、治療導入前にそのような感染がないかをきちんと調べた上で行います。
【漢方薬】
潰瘍性大腸炎にある種の漢方薬が効果があるということが昔から言われております。
治験を行っていた漢方薬もありますが、はっきりと効くというデータはないため、現時点ではあくまで補助治療といった位置づけになります。
※治療の流れ
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<クローン病>
潰瘍性大腸炎と異なり、小腸に病変があるクローン病の場合は食事制限が必要になってきます。
軽症の場合は食事療法と5ASA製剤にて治療を行いますが、増悪した場合はステロイドや血球除去治療・生物学的製剤(レミケード・ヒュミラ・ステラーラ)の投与を行います。
重症化した場合は入院しての絶食・点滴が必要になります。
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6.難病医療費助成制度とは?
潰瘍性大腸炎・クローン病には「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づく指定難病として、長期の療養による医療費の経済的負担を支援する難病医療費補助制度があります。
医療助成が受けられるのは、潰瘍性大腸炎の患者さんで重症度が中等度以上の方、クローン病の患者さんではIOIBDという重症度スコアが2点以上の方となります。
この基準に当てはまらない患者さんでも次の2つの場合は助成の対象となります。
①高額な医療費を支払っている方(指定難病に関わる医療費の月額総額が33,330円を超える月が年間3回以上)
②2014年までの制度で助成を受けられていて、新制度の開始にあたって更新の手続きをされた方(既認定者と言い、2017年12月31日までの暫定措置になります。)
<自己負担額の上限額>
医療費助成が認定された方の医療費の自己負担額は2割となります。
世帯の所得に応じて自己負担額の上限が定められており、それを超えた医療費は公費で助成されます。
<申請の手続き>
東京都の場合
①診断書(臨床個人調査書)と申請書を都のホームページからダウンロード(潰瘍性大腸炎・クローン病)、または保健所窓口でうけとる。
②難病指定医が診断書(臨床個人調査書)を記載 ※当院院長は難病指定医なので記載が可能です。
④都で審査
⑤認定されると医療受給者証が交付されます。
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7.実際の治療例
Case1.20代女性
【症状】
8か月ほど前から時々便に赤い血が混じるような状態の血便があり、近くの肛門科を受診し、「痔」と診断され薬を出されて様子をみていましたが、改善なく度々血便を繰り返す状況が続いていました。
ここ最近、血便の頻度が増えてきため不安になり当院を受診されました。
【診察】
ここ1-2か月ほどは便に血が混じる状態に加え、便自体も形が崩れていたり粘液のような便だったりと、いわゆる便通異常を伴っている状態でした。
症状からは「痔」というよりも、腸の粘膜に炎症を起こす「何らかの腸炎」による出血・便通異常を考えました。
(単なる「痔」の場合は便通異常は伴わないことが多いです。)
【検査】
食事を摂らずに来院されたので、当日すぐに腹部エコーを行い状態を確認したところ、S状結腸に腸管の炎症像を認め経過と合わせて「潰瘍性大腸炎」を疑いました。
状態を説明し、後日大腸内視鏡(大腸カメラ)を行いました。
内視鏡の所見と病理検査結果から「潰瘍性大腸炎」の確定診断となりました。
【治療】
潰瘍性大腸炎は約80%の患者さんが、5-ASA製剤という内服薬で症状が落ち着くため、まず同薬の治療を開始しました。
【経過】
内服開始1週間ほどで血便はなくなり、粘液のような便も2週間ほどで消失しました。ただ、便の形は軟便傾向がつづいている状態だったため、腹部エコーで状態を評価したところ、炎症像は軽減していたものの残存しており、検便でも炎症の数値が軽度の上昇を認めました。
炎症の範囲が肛門から近いS状結腸までであり、内服薬に加えスプレー式の注腸整剤(レクタブル)を併用したところ、2週間ほどで便の普通便にもどりました。
その後、注腸製剤は中止し、内服のみで緩解維持療法を続けています。
潰瘍性大腸炎は緩解状態(症状が消失した状態)になった後も、再燃を起こしやすい病気のため基本的には内服製剤などを続け緩解状態を維持していくことが大切になります。
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Case2.20代男性
【症状】
5年ほど前に他院で潰瘍性大腸炎と診断され治療を受けていましたが、引っ越しに伴い半年ほど通院を自己中断していた状態でした。
中断直後は1日1-2回の軟便がある程度の症状でしたが、1か月前からは血便を伴い、形状は水様になり、回数も1日6~10回と増えてきたため当院を受診されました。
【診察】
状況からは治療中断による潰瘍性大腸炎の再燃の可能性が高く、まずは状態を評価するために速やかに検査の予定を組みました。
血液検査と腹部エコーを行いました。
【検査】
エコーでは大腸全体に炎症像を認め、血液検査でも炎症反応の上昇があり、経過と合わせて「潰瘍性大腸炎再燃・中等症」と考え、状態を説明し、大腸内視鏡(大腸カメラ)を行いました。
内視鏡の所見からも「潰瘍性大腸炎再燃・中等症」の確定診断となりました。
【治療】
内視鏡上は炎症が強く、高用量の5ASA製剤を使用し経過を見ることとしました。
【経過】
内服開始1週間ほどで血便の程度はやや減ったものの、便は下痢のままで回数や性状はあまりかわらず、その後2週間ほど内服を続けましたが大きな変化はない状態でした。
追加治療を検討する必要があり、ご本人と相談の上、GCAP療法を導入することとしました。
3回目のGCAPあたりから排便回数の低下などの効果が出始め、5回目終了後からは血便も消失しました。
その後治療を継続し、全10回のGCAPを行い、終了後1週間後の再診時には症状は改善し、寛解状態となり、現在は内服で寛解状態を維持しております。
潰瘍性大腸炎は治療の中断により再燃を起こすことが非常に多いのも特徴です。
症状がある程度悪化してしまうと、治療再開のタイミングが遅れ、内服薬だけでは寛解に至らないこともあります。
今回のケースでは幸いにもGCAP療法が奏功しましたが、場合によっては更なる治療を要することもあります。
また、GCAP療法は高額な治療であるため、難病申請をしていないと経済的負担が大きくなります。今回のケースでは以前の申請が継続中であったため、速やかに治療をステップアップすることができました。
重症度が中等症以上の方、軽症でも治療を継続している方は、悪化時や経済的負担に備え難病申請を行い継続していくのも重要です。
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8.Q&A
Q:症状がないですが治療は必要ですか?
A:基本的には必要です。
潰瘍性大腸炎は軽症の場合は自覚症状がない場合もあります。ただ、症状がないからと言って炎症が消えてるわけではなく、炎症がくすぶり続けることでガン化のリスクが出たり※、増悪のリスクが出たりするため、基本的には治療を行い炎症が落ち着いた状態(寛解状態)を維持していくことが大切です。
Q:症状が消えたら薬はやめていいですか?
A:続けることが重要です。
潰瘍性大腸炎は投薬治療で落ち着くことがほとんどですが、根本的な治療ではないためやめることで再燃することが多く、投薬の継続が寛解状態の維持に有効であり1)、潰瘍性大腸炎による大腸がんの発生を抑制することもわかっており2)、症状がなくなった後も投薬を続けることが大切です。
参考文献:1)Wang Y, Parker CE, Fegan BG, et al. Oral 5-aminosalicylic acid for maintenance of remission in ulcerative colitis. Cochrane Database Syst Rev 2016; 5: CD000544
2)OʼConnor A, Packey CD, Akbari M, et al. Mesalamine, but not sulfasalazine, reduces the risk of colorectal neoplasia in patients with inflammatory bowel disease: an agentspecific systematic review and metaanalysis. Inflamm Bowel Dis 2015; 21: 2562-2569
Q:発症に食事は関連しますか?
A:ある種の食事は発症に関連すると言われています。
砂糖菓子の摂取は潰瘍性大腸炎の発症と関連するとの報告1)や、イソフラボン(大豆に多く含まれる成分)の高摂取者では,潰瘍性大腸炎発症が約 2 倍になるという研究結果2)もあります。
参考文献:Sakamoto N, Kono S, Wakai K, et al. Dietary risk factors for inflammatory bowel disease: a multicenter case-control study in Japan. Inflamm Bowel Dis 2005; 11: 154-163
3) Ohfuji S, Fukushima W, Watanabe K, et al; Japanese Case-Control Study Group for Ulcerative Colitis. Preillness isoflavone consumption and disease risk of ulcerative colitis: a multicenter case-control study in Japan. PLoS One 2014; 9: e110270
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
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・巣鴨駅前胃腸内科クリニックでのIBD治療 (「CCJAPAN」 vol.93 掲載)