がん早期発見・予防外来
その中で、がんになる手前の前がん状態や早期がんの状態で見つかり、無事に治療出来、日常生活に戻られた方も大勢いらっしゃいました。
しかし一方では、発見時にはかなり進行した状態で、残念ながら不幸な結末を迎えた方もあり、その度に「あと一年でも早く検査を受けてくれていれば」と、悔しい思いもしてきました。
がんは確かに命にかかわる大きな病気ですが、早期の段階で治療すればほぼ完全に治すことができます。
ですから、検査を受ける適切なタイミングを見極め、いかに早期発見するかが重要です。
当院の「消化管がん発見・予防外来」では、
・患者さん一人一人のリスクや生活環境に合わせたがんの早期発見のための検査のプラン作り
・民間療法などではなくきちんとした医学的なデータに基づいたがんになりにくくなるための生活習慣・環境作り
などを行っていきます。
<目次>
2.がんの予防とは?
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1.そもそも「がん」とは?
「がんは怖い病気」 「進行すると命にかかわる」
よく耳にする言葉ですが、ではなぜがんは“怖く”“命にかかわる”のでしょうか?
そもそも私たちの体は、細胞が集まってできています。この細胞は分裂して増えていき、増えたら古いものと入れ替わったりと規則的に増殖していきます。
ところが、がん細胞は、入れ替わったりすることなく勝手にどんどん増えていき(自立性増殖)、周りの臓器に広がったり、血液やリンパの流れに乗って離れた臓器に転移したり(浸潤と転移)、増えるために他の臓器が必要とする栄養を奪い取ってしまいます(悪液質)。
浸潤・転移した臓器は正常な働きが出来なくなり(例えば肺に転移してしまうと最終的には呼吸不全に陥り命を落としてしまいます)、また栄養を奪い取られてしまうと正常な細胞を働かせることが出来ずに衰弱して命を落としてしまいます。
この、①自律性増殖 ②浸潤と転移 ③悪液質、はがん細胞の3つの特徴といわれており、この性質ががんの怖ろしいところなのです。
では、なぜがん細胞が生まれるのでしょうか?
簡単に言うと「細胞内の遺伝子がキズつくこと」が原因だと考えられています。
細胞の中には、その設計図とも言える遺伝子がありますが、これがなにかの原因でダメージを受けて壊れてしまうことで、設計図と違う異常な細胞(=がん細胞)が生まれてしまいます。この遺伝子のダメージ自体は、加齢、喫煙や過剰な飲酒などの生活習慣、ストレス、環境要因、ウィルス感染など、さまざまな要因が長年にわたって蓄積することで起こると考えられています。
現在、日本人の2人に1人ががんになる時代です。その中でも消化管のがんである胃がん・大腸がんは、2020年のがん死亡者数3位(約3万2千人).・第2位(約5万人)を占め毎年多くの命を奪っています。
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1位
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2位
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3位
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4位
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5位
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男性
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肺
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胃
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大腸
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膵臓
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肝臓
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女性
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大腸
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肺
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膵臓
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乳房
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胃
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男女計
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肺
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大腸
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胃
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膵臓
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肝臓
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がんはある程度進行してしまうと完治が難しく、確かに命にかかわるやっかいな病気であることには間違いないのですが、次項以降で見ていく「予防」をしていくことで命を落とす方を大幅に減らせると考えています。
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2.がんの予防とは?
がんにならないようにすることだけが「予防」じゃない。
「予防」と聞くと、“がんにならないようにすること”と考えてしまいがちですが、実はそれだけが予防ではありません。
実は、がんの予防には「一次予防」と「二次予防」の2つがあります。
一次予防:生活習慣や生活環境の改善により癌のリスクを減らすこと
二次予防:早期発見・早期治療によって癌による死亡を減らすこと
いわゆる「予防」として言われている、がんにならないようにするような生活習慣つくり(=一次予防)は非常に重要ですが、一次予防には限界があり、どんなに健康的な生活を送ってがんのリスクを減らしても決してがんにならないという保証はありません。
ですから、しっかりと一次予防をしつつも、がんで命をおとさないための早期発見(=二次予防)を合わせておこなっていくことが、本当の意味でのがんの予防なのです。
特に私の専門である消化管は、臓器ごとにがんのリスクがわかっているものが多く(例えば胃ガンのリスクはヘリコバクターピロリ菌や喫煙習慣、食道がんは飲酒・喫煙など)、そのリスクを評価することで適切な検査のタイミングを決めることが出来(二次予防)、また生活環境などを見直すことでがんのリスク自体を減らすことができます(一次予防)。
実際に各臓器ごとの「予防」についてどうしたらいいかを見ていきましょう。
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3.食道がん・咽頭がん
「飲酒(特に顔が赤くなる方)」「喫煙者」要注意!
食道がんのリスクについて、きちんとした医学的データのあるものをまとめてみました。
リスクを確実に上げるものとしては、「喫煙」、「飲酒」があり、2つが相乗的に作用してリスクを上げることも指摘されています。
特に、飲酒後すぐに顔が赤くなる方は、少量飲酒の場合健常人と比較して8.84倍の食道癌発ガンリスクがあり、3合以上飲酒した場合はなんと114倍の発ガンリスクがあるとの報告もあります。
また、逆に喫煙や飲酒の習慣がない人は食道がんになることはほとんどありません。
※なぜお酒で顔が赤くなると食道がんのリスクが高いの??
お酒をのんですぐに顔が赤くなる方は、アルコールの分解能力が低く、分解される過程で発生するアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすい体質だということを意味します。このアセトアルデヒドが、顔が赤くなる・頭痛・吐き気といった症状や二日酔いを引き起こし、さらに発がん物質にもなるため、分解できずに体内に蓄積されるとがんのリスクが上がってしまうのです。
喫煙・飲酒以外には、熱い飲食物も食道がんのほぼ確実なリスクになるとされ、野菜・果物の摂取がほぼ確実にリスクを下げることがわかっています。
このリスクを念頭に食道がんになりにくくなるような生活習慣をつくり、禁酒・禁煙を徹底することで食道がんの「一次予防」はかなり期待ができるのですが、嗜好品であるお酒・たばこを完全にやめるのは簡単ではありません。
ですから、なるべくリスクを減らすための努力をしつつ、食道がんのリスクを評価し早期発見を行う二次予防が大切になってきます。
食道がんのリスク評価は、国内の食道がんのリスク研究で有名な国立病院機構久里浜医療センターのHPにて行うことができます。この評価で上位10%に含まれた方は食道がんハイリスク群とされ、実際に約1%に食道がんが見つかっています。
食道がんは年間約19000人の方に見つかり、そのうち6割強に当たる約12000人の方が亡くなる非常に恐ろしい病気です。
病気の発症者数に対しての死亡者数の割合が6割と高くなっている理由としては、食道の壁が薄いため浸潤・転移し易く、がんの進行が早いという特徴のためですが、ただ、表面にとどまっている表在がんの場合は胃カメラで根治することが可能なため、先ほどの食道がんハイリスク群の方は定期的(半年~1年毎)な胃カメラを受けることを勧めています。
ひと昔前までは、胃カメラでも食道表在がんを見つけるのが困難だった時代もありましたが、現在はハイビジョン胃カメラが登場したり、NBIと呼ばれる色調を変化させる観察法などの技術が進み、かなり早期の表在がんでも発見が出来るようになってきました。
当院でも、オリンパスの最新機種である第二世代NBIを搭載したハイビジョン胃カメラを採用し、通常の胃カメラや第一世代NBIではわかりにくい超早期のがんでも発見することが可能となっています。
さらに胃カメラでは、通常の食道がんとはやや異なる、バレット腺がんと呼ばれる胃と食道のつなぎ目に出来る食道がんの観察をすることもできます。(詳しくは、バレット食道・食道がんをご参照ください。)
また、食道がんと咽頭がんのリスクは共通することが多く、実際に食道がんの方の2-3割程度に咽頭がんも併発していることが報告されています。ですので、食道がんのハイリスクの方は、咽頭の観察もより念入りに行います。
このように、リスクを評価し胃カメラを定期的に行えば、がんを早期発見することが出来、食道がんで命を落とす危険性はかなり改善できると思われます。
<まとめ>
食道がんの予防:喫煙・飲酒の習慣の改善+リスク評価+(必要な方には)定期的胃カメラ
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4.胃がん
胃がんの予防の第一歩は、自分がピロリ菌に感染しているかどうかを知ること
日本人のがんの死亡者数でも第3位(2014年)である胃がん。
2014年に新規に胃がんと診断された方は、日本全国で約90,800人おり、約32,000人の方が命を落とされています。
ただ、胃がんの原因の大部分はピロリ菌であることがわかっており、ピロリ菌に感染したことがない方はほとんど胃がんになりません。そして現在はピロリ菌の新規感染者が減っていること、また2013年にピロリ菌の除菌が保険適応されたこともあり、今後は胃がんは激減してくると考えられています。
ですから、胃がんの予防の第一歩は、「自分がピロリ菌に感染しているかどうかを知ること」 と言えます。
ご自身がピロリ菌に感染しているかどうかは、保険診療(胃カメラやバリウム検査を受け適応ありと判断された方のみ)や、胃がん検診や自費診療(1500円-6000円程度)でも調べることが出来ます。
実際にピロリ菌がいた方はしっかりと除菌を行い、その後は定期的な胃カメラで経過をおっていきます。
(詳細はピロリ菌外来をご参照ください。)
また、ピロリ菌に関係なく発症する胃がんも極々稀にあるため(胃がん全体の0.7%くらい:年間日本全国で600人くらい、だいたい宝くじで1億円以上当選するのと同等の数字です)、可能性が低いとはいえ0%ではないため、喫煙者や塩分の強い食事をされる方は注意が必要です。
<まとめ>
胃がんの予防:ピロリ菌の退治+定期的胃カメラ
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5.大腸がん
大腸がんの予防のカギは大腸カメラ
大腸がんは患者数・死亡者数とも年々増加し、2014年に新規に大腸がんと診断された方は、日本全国で約135,800人おられ、5万人以上の方が命を落とされています。
リスク要因としては、遺伝的な要素に加え飲酒・肥満・喫煙・赤身肉や加工肉(ベーコン・ソーセージなど)の摂取などの生活習慣があげられ、また、運動や食物繊維の摂取が大腸がんのリスクを下げることがわかっています。
ですから、「飲酒・喫煙をせず野菜中心の食生活を行い、運動をし肥満に気をつける」、という健康的な生活がそのまま大腸がんの一次予防にもつながります。
ただ、“言うは易く行うは難し”とはよく言ったもので、現代社会でこのような生活を続けていくことはなかなか難しく、そして大腸がんの発生には生活習慣だけでなく遺伝的要素もあるため、このような生活を送ったからといって大腸がんにならないわけではありません。
では、大腸がんに対抗するにはどうしたらいいのか?
カギは大腸カメラだと考えます。
大腸がんはごく一部のケースを除いて、ほとんどが大腸ポリープから発生します。(良性の大腸ポリープの遺伝子にキズが重なり、大腸がんになると考えられています。)
ですから、大腸カメラを受けポリープを切除することががんの予防になりますし、大腸カメラを受けることでがん自体の早期発見につながります。
初回の大腸カメラを受けるタイミングとしては、年齢でいえば40歳が一つの目安になります。
40歳以上になると約半分の方にがん化のリスクのある大腸ポリープがあると言われており、大腸カメラを一度も受けられたことがない方は、40歳での検査をお勧めしております。
また、大腸がん検診である便潜血検査陽性の方も、実際に大腸カメラを行ってみると3%程度の方に大腸がんが見つかっており、放置せずに大腸カメラを受けることが大切です。
実際に便潜血陽性反応後に大腸内視鏡を施行しなかった方は施行した方に比べ、直腸ガン・大腸ガンによる死亡率が2倍以上になったとの報告(※1)もあります
(大腸カメラについての詳しいご説明はこちらをご参照ください。)
※1 参考文献;Zorzi M et al Gut 2022;71(3):561-567
また、初回の大腸カメラ後、「次の検査のタイミングはいつがいいのか?」とよくご質問を受けます。
まず、検査の際にポリープや早期がんを大腸カメラで切除した方は、大体半年-1年後を目途に再検査を受けて頂くようにしております。これは切除部の局所的な再発がないか、他に病変が出来ていないか、小さなポリープ・がんの見落としがないかなどを確認するためです。
初回の検査で異常がなかった方については、大体2-3年後くらいを目途に再検査を勧めています。その理由としては、初回の検査時に異常がないと診断されても、小さなポリープなどが襞の裏や残便の下に隠れていてわからないケースがあったり、前述のポリープを経ずにいきなり出来るがんを見つけるためです。
このように大腸がんは大腸カメラによる早期発見・早期治療といった二次予防が極めて重要ですが、生活習慣を見直し健康的な生活を送るといった一次予防も二次予防と合わせて行うことで相乗効果が望めますし、他のがんの一次予防にもつながりますので、できる限り続けてください。
<まとめ>
大腸がんの予防:生活習慣の見直し+大腸カメラ
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)