急性虫垂炎
「右下腹部が痛い」「歩くとお腹に響く」「胃の痛みだと思っていたら右下腹部が痛くなってきた」。
このような症状があると、急性虫垂炎ではないかと不安になる方も多いと思います。
急性虫垂炎は若い方に多いイメージがありますが、年齢に関係なく起こることがあります。 また、右下腹部痛は虫垂炎だけでなく、大腸憩室炎、感染性腸炎、尿管結石、婦人科疾患、大腸がんなどでも起こることがあります。
そのため、「右下腹部が痛い=すぐ虫垂炎」と決めつけるのではなく、診察・血液検査・腹部エコー・必要に応じたCT検査などで、原因を確認することが重要です。
右下腹部痛・急な腹痛でお困りの方へ
巣鴨駅前胃腸内科クリニックでは、腹痛の症状に対して診察、血液検査、腹部エコーなどを組み合わせて原因を確認します。 急性虫垂炎が疑われる場合には、重症度を判断し、内科的治療が可能か、連携医療機関での外科治療が必要かを判断します。
急性虫垂炎とは?
虫垂は、大腸の始まりの部分にある細い袋状の腸管です。 一般的には「盲腸」と呼ばれることもありますが、正確には炎症を起こす場所は「虫垂」です。
急性虫垂炎とは、この虫垂の内部が何らかの原因でつまることで、虫垂内の圧が上がり、細菌が増え、炎症や感染が起こる病気です【1】。
急性虫垂炎を起こす主な原因
急性虫垂炎は、虫垂の内腔がふさがることをきっかけに起こると考えられています【1】。
虫垂がつまる原因としては、以下のようなものがあります。
- リンパ組織の腫れ
- 糞石と呼ばれる硬い便のかたまり
- 異物
- 腫瘍
- まれに寄生虫など
虫垂の内部がつまると、虫垂の中の圧が上がり、血流が悪くなり、細菌が増えやすくなります。 その結果、虫垂が腫れ、炎症が進行していきます。
炎症が軽い段階で見つかれば抗菌薬で改善することもありますが、炎症が強くなったり、虫垂に穴があいたりすると、手術や入院治療が必要になることがあります。
急性虫垂炎でみられる主な症状
急性虫垂炎の症状は、典型的には次のような流れで出ることがあります。
| 症状の流れ | 特徴 |
|---|---|
| 初期 | みぞおちやおへその周りが痛む |
| 数時間後 | 痛みが右下腹部へ移動する |
| 炎症が強くなる | 発熱、吐き気、食欲低下、歩行時に響く痛みが出る |
| 重症化した場合 | 腹膜炎、強い圧痛、持続する高熱、腹部全体の痛みが出ることがある |
ただし、すべての方が典型的な症状を示すわけではありません。 高齢の方、妊娠中の方、虫垂の位置が通常と異なる方では、症状が分かりにくいこともあります。
右下腹部痛を起こす主な病気
右下腹部痛がある場合、急性虫垂炎だけでなく、他の病気との鑑別が重要です。 特に、急性虫垂炎と大腸憩室炎、感染性腸炎、尿管結石、婦人科疾患は、症状だけでは見分けにくいことがあります。
| 病気 | 症状の特徴 | 確認に役立つ検査 |
|---|---|---|
| 急性虫垂炎 | みぞおち・おへそ周囲から右下腹部へ痛みが移動、発熱、吐き気 | 診察、血液検査、腹部エコー、CT |
| 大腸憩室炎 | 右下腹部や左下腹部の痛み、発熱、炎症反応 | 血液検査、腹部エコー、CT |
| 感染性腸炎 | 下痢、腹痛、吐き気、発熱、食あたりの経過 | 問診、血液検査、便検査、腹部エコー |
| 尿管結石 | わき腹から下腹部への強い痛み、血尿、波のある痛み | 尿検査、腹部エコー、CT |
| 婦人科疾患 | 下腹部痛、月経との関連、不正出血、妊娠の可能性 | 婦人科診察、エコー、妊娠反応、血液検査 |
| 大腸がん | 腹痛、便通異常、血便、体重減少、貧血 | 大腸カメラ、血液検査、CT |
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急性虫垂炎が疑われるときの診察
診察では、
- 痛みがいつから始まったのか
- 最初にどこが痛かったのか
- 痛みが移動しているか
- 発熱や吐き気があるか
を確認します。
また、右下腹部を押したときの痛み、離したときの痛み、歩いたときに響く痛み、腹膜刺激症状の有無などを確認します。
ただし、診察だけで急性虫垂炎と確定することは難しい場合があります。 そのため、血液検査や腹部エコー、必要に応じてCT検査を組み合わせて判断します【2】。
急性虫垂炎の検査
血液検査
白血球数やCRPなどの炎症反応を確認します。 炎症が強い場合や数値が上昇している場合は、虫垂炎を含めた腹部の炎症性疾患を考えます。
腹部エコー検査
腹部エコーでは、虫垂が腫れていないか、周囲に炎症が広がっていないか、膿瘍や腹水がないかを確認します。 放射線被ばくがなく、体への負担が少ない検査です。
◆実際の腹部エコー画像
右下腹部の痛みがある部位に一致して腫大した虫垂を認め、急性虫垂炎と診断しました。
▶当院では、右下腹部痛の診察において、症状や診察所見に応じて腹部エコーを活用しています。
CT検査
症状が強い場合、診断が難しい場合、穿孔や膿瘍などの合併症が疑われる場合は、CT検査が必要になることがあります。 右下腹部痛で虫垂炎が疑われる場合、CTは有用な画像検査の一つとされています【2】。
当院で緊急性が高いと判断した場合や、入院・手術が必要と考えられる場合には、連携医療機関へ速やかにご紹介します。
急性虫垂炎の治療
急性虫垂炎の治療は、炎症の程度、穿孔の有無、膿瘍の有無、全身状態によって異なります。
軽症・限局した虫垂炎の場合
炎症が虫垂に限局していて、穿孔や膿瘍がなく、全身状態が安定している場合は、抗菌薬による内科的治療を検討します。
8-9割くらいは改善しますが、再発することがあります。 海外の研究では、抗菌薬で治療した虫垂炎では一定の割合で後日手術が必要になることが示されています【3】【4】。
炎症が強い・穿孔が疑われる場合
痛みが強い場合、炎症反応が高い場合、虫垂に穴があく穿孔が疑われる場合、膿瘍や腹膜炎が疑われる場合には、手術を含めた外科的治療が必要になることがあります。
このような場合には、当院で無理に経過を見るのではなく、手術や入院治療に対応できる連携医療機関へ速やかにご紹介します。
薬で散らした後の注意点
抗菌薬で炎症が落ち着いた場合でも、再発の可能性があります。 また、特に40歳以上の方では、まれに虫垂や大腸の腫瘍が虫垂炎の背景にあることもあります。
そのため、症状が改善した後も、画像検査で虫垂の腫れが改善しているかを確認したり、必要に応じて大腸カメラなどで大腸側の病気がないかを確認したりすることが大切です。
実際の治療例|20代女性「急に発症したみぞおちの痛み・右下腹部痛」
【症状】
前日夜から急にみぞおちの痛みが出現。改善するかと思い様子を見ていましが、どんどん増強してきたとのことで当院を受診されました。
【診察】
診察時にはみぞおちに加え、右下腹部にも痛みが出てきており、触診上でも右下腹部にかなり強い痛みがありました。
急激に症状が発症していることと、痛みがみぞおちから右下腹部に移動してきたことから急性虫垂炎(いわゆる盲腸)を疑いエコー検査を行いました。
【検査】
エコー検査では、虫垂が8.8㎜大に腫大し(黄色矢印部分)、急性虫垂炎と診断しました。 ※正常は6㎜以下です。
【治療】
エコー検査では虫垂の穿孔(穴が開くこと)はなく、血液検査でも炎症は軽症であり、抗生剤の点滴で炎症を散らすこととしました。
翌日の再診時には痛みはかなり落ち着いており、炎症は改善傾向であり、3日ほど抗生剤を続け、最終的に痛みの改善、エコーや血液検査でも炎症の鎮静化を確認し、いったん治療終了としました。
薬で散らした場合は再燃するリスクもあるため、落ち着いた後に予防的に虫垂を切除する手術を行うケースもあります。(今回は患者さん本人が希望されず、手術までは行いませんでした。)
早めに受診した方がよい症状
次のような症状がある場合は、急性虫垂炎や他の急性腹症の可能性があります。 我慢せず、早めに医療機関を受診してください。
- 右下腹部の痛みが強い
- みぞおちやおへその周りの痛みが右下腹部へ移動してきた
- 発熱を伴う
- 吐き気・嘔吐がある
- 歩くとお腹に響く
- 押すと強く痛む、離したときに痛む
- 痛みがどんどん強くなっている
- 食欲がなく、水分も取りづらい
- 妊娠の可能性がある下腹部痛
- 高齢者の急な腹痛
院長コメント
急性虫垂炎は、「右下腹部が痛い病気」と思われがちですが、実際には最初にみぞおちやおへその周りが痛くなり、時間とともに右下腹部へ痛みが移動してくることがあります。
また、右下腹部痛の原因は虫垂炎だけではありません。 大腸憩室炎、感染性腸炎、尿管結石、婦人科疾患、大腸がんなど、似た症状を起こす病気もあります。
大切なのは、「虫垂炎かどうか」を自己判断することではなく、痛みの経過・診察所見・血液検査・腹部エコーなどを組み合わせて、早い段階で原因を見極めることです。
特に、発熱を伴う右下腹部痛、歩くと響く痛み、痛みが増強している場合は、早めの受診をおすすめします。
よくある質問FAQ
Q:急性虫垂炎は自然に治りますか?
A:軽い腹痛が一時的に落ち着くことはありますが、急性虫垂炎が自然に安全に治るとは限りません。炎症が進むと穿孔や腹膜炎につながることがあります。右下腹部痛、発熱、吐き気がある場合は早めに受診してください。
Q:急性虫垂炎の痛みはどこに出ますか?
A:典型的には、みぞおちやおへその周りの痛みから始まり、時間とともに右下腹部へ移動することがあります。ただし、最初から右下腹部が痛む方や、症状がはっきりしない方もいます。
Q:胃痛だと思っていたら虫垂炎のことはありますか?
A:あります。急性虫垂炎では、初期にみぞおちやおへその周りが痛むことがあり、胃痛のように感じることがあります。その後、右下腹部に痛みが移動してくる場合は注意が必要です。
Q:急性虫垂炎はエコー検査でわかりますか?
A:腹部エコーで腫れた虫垂や周囲の炎症を確認できることがあります。ただし、体型、腸管ガス、虫垂の位置などによって見えにくい場合もあります。その場合はCT検査などが必要になることがあります。
Q:急性虫垂炎は必ず手術になりますか?
A:必ず手術になるわけではありません。穿孔や膿瘍がなく、炎症が軽い場合には抗菌薬で治療できることもあります。ただし、痛みが強い場合、炎症が強い場合、穿孔が疑われる場合は手術が必要になることがあります。
Q:薬で散らした場合、再発しますか?
A:再発することがあります。抗菌薬で一度改善しても、後日再び虫垂炎を起こすことがあります。そのため、治療後も症状の再燃に注意し、必要に応じて外科的治療について検討します。
Q:急性虫垂炎と大腸憩室炎はどう違いますか?
A:どちらも右下腹部痛や発熱を起こすことがあります。症状だけで見分けるのは難しいことがあるため、診察、血液検査、腹部エコー、必要に応じてCT検査で判断します。
Q:右下腹部痛があるとき、大腸カメラはすぐ必要ですか?
A:急性炎症が強い時期には、無理に大腸カメラを行わないことがあります。まずは診察、血液検査、腹部エコー、CTなどで急性の炎症を確認し、炎症が落ち着いた後に必要に応じて大腸カメラを検討します。
Q:40歳以上の虫垂炎では何に注意が必要ですか?
A:40歳以上では、まれに虫垂や大腸の腫瘍が背景にあることがあります。症状が改善した後も、画像検査で虫垂の腫れが改善しているか、必要に応じて大腸カメラで大腸側に病気がないか確認することがあります。
Q:どのタイミングで受診すべきですか?
A:右下腹部痛が強い、痛みが増している、発熱や吐き気がある、みぞおちの痛みから右下腹部痛へ移動してきた、歩くと響く場合は早めに受診してください。強い痛みや高熱、ぐったりしている場合は救急受診も検討してください。
まとめ
急性虫垂炎は、早い段階で診断できれば抗菌薬で治療できることもありますが、炎症が進むと入院や手術が必要になることがあります。 特に、みぞおちやおへその周りの痛みから右下腹部痛へ移動する場合、発熱や吐き気を伴う場合は注意が必要です。
- 急性虫垂炎は虫垂がつまることで炎症を起こす病気です
- 最初はみぞおちやおへその周りが痛むことがあります
- 時間とともに右下腹部へ痛みが移動することがあります
- 発熱・吐き気・食欲低下を伴うことがあります
- 右下腹部痛は大腸憩室炎や尿管結石などでも起こります
- 診察、血液検査、腹部エコー、CTなどで判断します
- 軽症なら抗菌薬、重症なら手術が必要になることがあります
- 薬で散らした後も再発に注意が必要です
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
関連ページ
・大腸がん
参考文献
- Ansari P. Appendicitis. Merck Manual Professional Edition. Reviewed/Revised Jul 2024.
- American College of Radiology. ACR Appropriateness Criteria® Right Lower Quadrant Pain.
- CODA Collaborative. A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis. N Engl J Med. 2020;383:1907-1919.
- Salminen P, et al. Five-Year Follow-up of Antibiotic Therapy for Uncomplicated Acute Appendicitis in the APPAC Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;320(12):1259-1265.
- Kumar SS, et al. SAGES Guideline for the Diagnosis and Treatment of Appendicitis.
