実際の治療例 “他院で異常なしと言われたが、調べてみると好酸球性食道炎だった”
当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
20代 男性 食事の度にのどや胸がつかえる
【症状】
1年程前から食事中にのどや食道に詰まるような感じがあり、近所の消化器内科クリニックを受診。
同院で胃カメラ(胃内視鏡検査)を受けましたが異常なしとの診断で、ゆっくりよく嚙んで食べるようにとの指示と漢方薬を出されましたが全く改善しないとのことで当院を受診されました。
【問診】
食事はゆっくりよく噛んで食べるように心がけてはいるもものやはり詰まる感じは続くとのことで、
- 食道カンジダ
- 逆流性食道炎
- 食道ガン
- 食道アカラシア
- 好酸球性食道炎(アレルギー性食道炎)
などの食道の通過障害を来す疾患が疑われました。
特に食道アカラシアや好酸球性食道炎は専門施設以外では見落とされることもあり、ご本人と相談し再度胃カメラを行い状態を見てみることとしました。
【検査】
胃カメラを行うと、食道全体にに円を描くような段差を認め、好酸球性食道炎というアレルギーによる炎症を疑いました。
胃カメラで見た実際の食道の画像です。 好酸球性食道炎に特徴的な円形に段差がついたような凹凸を認めます(矢印部分)
生検を行うと、実際にアレルギー細胞を多数認め好酸球性食道炎と診断しました。
【治療】
好酸球性食道炎とは、アレルギーを起こしたときに出現する白血球の一種である「好酸球」が食道の粘膜に慢性的に炎症を起こすことで起こる病気です。
アレルギーによって起こるものなので、別名「アレルギー性食道炎」とも言われています。
本来食道にはアレルギーを起こす好酸球はほとんどないのですが、胃酸の逆流による炎症(=逆流性食道炎)を契機に好酸球が食道に出現してしまいアレルギーを起こしやすくなり、
そこに食物によるアレルギー反応・炎症が起こることで、食道の機能(蠕動して食事を胃に送る)が障害され、詰まりやつかえ感などの症状が起こります。
好酸球性食道炎は無症状の場合には特に治療を行わず様子を見る場合もありますが、今回のように症状がある方・内視鏡上の炎症がひどい方は治療を行います。
治療①薬物療法
A.制酸薬
前述のように本来食道にはアレルギーを起こす好酸球はほとんどないのですが、逆流性食道炎を契機に好酸球が食道に出現してしまいアレルギーを起こしやすくなり発症する可能性が示唆されており、実際に胃酸の逆流を抑える制酸剤治療が効力を発揮します。
約半数の方はPPIと呼ばれる制酸剤で改善し、まず一番最初に試してみる薬です。
B.ステロイド
アレルギー反応を抑えるステロイドも治療には有効です。
喘息などの際に吸入する吸入用ステロイドを飲んで頂いたり、それでも効果がない場合や狭窄を来している場合にはステロイドの錠剤などを用います。
C.その他
ステロイドは副作用も多彩なため、ステロイドよりも効果は劣るものの副作用の少ない免疫抑制剤や抗ヒスタミン薬・抗ロイコトリエン拮抗薬といったアレルギーを抑える別の薬を選択することもあります。
治療②食事療法
好酸球性食道炎の原因となっているアレルギー源を突き止め、その食物を抜いて頂くことで改善することがあります。
ただし血液検査や皮膚試験を行っても原因となるアレルゲンを見つけるのは難しいと言われおり3)、アレルギー専門科での精査が望ましいと考えます。(当院での対応が難しいため専門施設への紹介を行っております。)
<治療内容>
今回は症状はつまり感の症状は感じられておられるものの、内視鏡上の所見は軽度のため、制酸剤と抗ヒスタミン薬・抗ロイコトリエン拮抗薬による治療を行いました。
【経過】
治療開始して数日後から症状は徐々に減り、2週間ほどでほとんど症状が出なくなったとのことでした。
ただ、好酸球性食道炎は薬物療法で症状が落ち着いた場合でも、やめてしまうと1年以内に半数以上の方が再発してしまうため、投薬治療を継続しつつ経過観察としました。
また炎症状態が続くと食道狭窄が起こることが少なからずみられるため、半~1年毎定期的に内視鏡で状態を評価することとしています。
食道に食べ物がつまるような感覚を起こす病気としては
- 逆流性食道炎
- 食道カンジダ症
- 食道ガンなどの腫瘍
- 好酸球性食道炎
- 食道アカラシアなどの蠕動運動異常
などが挙げられます。
この中でも好酸球性食道炎やアカラシアなどは比較的珍しい疾患であり、実際に経験したことのない医師もいるため胃カメラで見逃されてしまうことも少なくありません。
今回のように胃カメラで異常がないと言われても症状が改善ない場合には、専門施設での内視鏡を受けることも重要です。
症状でお悩みの方はお力になれることもありますので、一度ご相談ください!
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
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