十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍とは?
十二指腸潰瘍とは、十二指腸の粘膜の表面が炎症によりただれ一部が欠損してしまった状態です。
みぞおち~上腹部の痛み、背部痛、吐き気などの症状を引き起こし、重篤になると、吐血や激しい痛みなどを伴うこともあります。
原因は?
胃や十二指腸の粘膜は、常に胃酸にされされていますが、健康な状態では粘膜の防御機能によって胃酸により粘膜が傷つかないようになっています。
ピロリ菌や痛み止めの薬などによりこの防御機能がうまく機能しなくなり、そこが胃酸にさらされることで、粘膜が傷つきただれてしまい、ついには一部が欠損し潰瘍になってしまいます。
潰瘍がひどくなると、潰瘍から出血する「出血性十二指腸潰瘍」や、十二指腸に穴が空いてしまう「十二指腸潰瘍穿孔」という重篤な状態になることもあります。
また十二指腸は潰瘍によって変形を来しやすく、繰り返すことで十二指腸の変形が強くなり、狭窄してしまい食物の通過障害を起こすこともあります。
症状は?
・みぞおちや上腹部の痛み(十二指腸潰瘍の場合は特に空腹時に症状が出やすいのが特徴です。胃潰瘍の場合は食後に症状が出やすいです。)
・背中の痛み(十二指腸は体の背側にあるため背中が痛むことがよくあります。)
・吐き気、不快感
・黒色便(潰瘍から出血すると、血液に含まれる鉄分の色で便が真っ黒になります)
関連ページ:胃潰瘍
検査は?
上記のような症状があった場合は、胃カメラを行って実際に十二指腸の状態を確認してみます。
また、大きな十二指腸潰瘍であれば腹部エコーでも指摘することが出来るため、当院ではまずベッドサイドでエコー検査を行うことも多いです。
<実際の内視鏡(胃カメラ)所見>
胃痛と黒色便で来院された方です。
胃内視鏡(胃カメラ)を行うと、十二指腸の入り口の「球部」と呼ばれる部位に潰瘍を認めました。
潰瘍がかなり深く一部に出血の痕跡を認め、直ちに治療を開始しました。
<実際のエコー所見>
図はエコーで指摘された十二指腸潰瘍です。
このように十二指腸潰瘍は、エコーでしっかりと観察することで指摘できることも少なくなく、しかも簡単に出来るため、症状がある場合に一番最初にやる検査としては非常に有用です。
関連ページ:
・胃カメラ
治療は?
十二指腸潰瘍自体は、胃酸を抑える制酸薬や粘膜を保護する薬を使って治します。
原因がピロリ菌の場合は除菌を行って、再発予防を行うことも重要です。
(詳しくは、ピロリ菌と潰瘍の関係を参照ください。)
また痛み止めなどの薬が原因の場合は痛み止めの薬の種類を変えたり、制酸薬や粘膜保護剤を併用することで再発を防ぎます。
実際の治療例
50代 男性 黒い便が出た
【症状】
2日前に黒い便が出て、3度ほど続いたとのことで来院されました。
【診察】
黒い便の原因としては上部消化管からの出血から起こることが多く、血液中の鉄分が吸収され便が黒色になります。
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 小腸出血
などの疾患が原因として考えられるため、胃カメラにて状態をチェックすることにしました。
関連ページ:・血便外来
【検査】
胃カメラを施行したところ、十二指腸潰瘍を認め今回の黒い便の原因と診断しました
【治療】
十二指腸潰瘍はピロリ菌や薬剤性で発症する粘膜障害で、粘膜が炎症を起こして表面がえぐれてしまう状態です。
粘膜は常に胃酸にさらされていますが、健康な状態では粘膜の防御機能によって胃酸により粘膜が傷つかないようになっています。
ただ、ピロリ菌や痛み止めの薬などによりこの防御機能がうまく機能しなくなり、粘膜が傷つきただれてしまい、ついには一部が欠損し潰瘍になってしまいます。
十二指腸潰瘍は空腹時に胃痛や背部痛が出たり、悪化すると今回のように潰瘍から出血し黒色便が出たり、穿孔(胃に穴が開くこと)し、緊急内視鏡や緊急手術になることもあります。
今回は幸いにも潰瘍の程度はひどくなく、出血も止まっていたことから薬で治療することとしました。
<治療内容>
①制酸薬
胃酸の分泌過多を抑える薬です。胃酸分泌を抑えることで、粘膜の再生力で潰瘍は治癒していきます。今回はプロトンポンプ阻害薬(PPI)という薬を処方しました。
②粘膜保護薬
胃の粘膜の防御機能を高め改善をより早めます。
③食事指導
食事についてはしばらくの間は刺激の少ない粥食や消化のよい和食系のものを召し上がっていくこととしました。
【経過】
その後は黒い便は出ることはなく、2週間後の再診時も問題ない状態でした。
十二指腸潰瘍は90%近くがピロリ菌が原因となっており、今回もピロリ菌が陽性であったため除菌も行うこととしました。
(実際にピロリ菌除菌後の潰瘍の再発率は 1~2%と極めて低いことが報告されています※1。詳しくは、ピロリ菌と潰瘍の関係を参照ください。)
抗生剤と制酸剤の組み合わせを1週間飲んでもらい、1か月後に再診をして頂き、呼気検査にてピロリ菌の除菌成功を確認しました。
ただ、ピロリ菌除菌後も胃がんのリスクがあるため※2、胃カメラは定期的に行っていく方針としています。
参考文献:※1Miwa H, Sakaki N, Sugano K, et al. Recurrent peptic ulcers in patients following successful Helicobacterpylori eradication: a multicenter study of 4940 patients. Helicobacter 2004; 9: 9-16
※2Sugano K. Effect of Helicobacter pylori eradication on the incidence of gastric cancer: a systematic review and meta-analysis. Gastric Cancer 2019;
Q&A
Q:十二指腸潰瘍はどのくらいで治りますか?
A:6週間の投薬治療で80%以上が治ります。
ただし、原因を除去しないと高確率で再発してしまいます。
ピロリ菌が原因場合は、1週間の除菌薬を飲んで除菌を行います。また鎮痛剤などによる薬剤性の場合は投薬内容の変更などを行います。
悪化して十二指腸穿孔(十二指腸に穴が開くこと)を来した場合は、長期の入院や手術が必要になる場合も稀にあります。
Q:十二指腸潰瘍は放置して治りますか?
A:自然治癒する場合もありますが、放置すると悪化したり再燃する可能性があります。
十二指腸潰瘍は軽症であれば自然治癒する場合もありますが、前述のように悪化して十二指腸穿孔(十二指腸に穴が開くこと)を来した場合は、長期の入院や手術が必要になる場合もあり、基本的には放置せずにきちんと治療を受けることが重要です。
Q:十二指腸潰瘍で食べてはいけないものは何ですか?
A:酸分泌を促すような高たんぱく食・香辛料・カフェイン・アルコールは避ける必要があります。
また消化に時間がかかる固いものや繊維質のものは多く取らない方がよいです。
Q:十二指腸潰瘍の治療は入院が必要ですか?
A:ほとんどの場合は入院は不要です。
現在はPPIやP-CABと呼ばれる効力の強い制酸剤を服用することで、外来で治療することが可能となっています。
ただし、疼痛が強い場合、穿孔した場合、大量出血がある場合には入院・手術を要することがあります。
Q:十二指腸潰瘍は胃カメラでわかりますか?
A:胃カメラで確認できます。
胃カメラは胃だけでは喉・食道・十二指腸も観察する検査ですので、十二指腸潰瘍は胃カメラで確認することが可能です。
大きな潰瘍であれば腹部エコーでも指摘は可能なので、胃カメラが怖い方は腹部エコーを行う場合もあります。
※小さな潰瘍は指摘できないため、エコー後に胃カメラを行い確かめる場合もあります。
Q:十二指腸潰瘍の生存率は?
A:死亡リスクは稀です。
十二指腸潰瘍や胃潰瘍、小腸潰瘍などを含めた消化性潰瘍の死亡率は3%程度と言われており、重症化しない限りはほとんどの場合は治る病気です。
ただし、痛みがあるのに我慢したり、黒い便が出ているのに放置してしまったりすると、穿孔や出血性ショックを来し命にかかることもあります。
症状がある場合には医療機関を受診することが大切です。
Q:十二指腸潰瘍はストレス性ですか?
A:ストレスも関連しますが、ストレス単独で潰瘍化することは稀です。
十二指腸潰瘍の原因の80%以上はピロリ菌関連と言われています。
ピロリ菌に感染して弱った粘膜に、精神的なストレスや肉体的ストレス(人間関係・過労や睡眠不足など)によって引き起こされる胃酸分泌過多が加わり潰瘍が発症します。
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
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