実際の治療例 “寒くなるとお腹が痛くなることが増える”
当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
30代 男性 寒くなるとお腹が痛くなる
【治療】
以前から寒い時期になるとお腹が冷えて痛くなることが多かったものの体質だと思って我慢していましたが、慢性的に腹痛があると言っていた会社の同僚が潰瘍性大腸炎と診断されたとのことで、自分も病気ではないかと心配になり当院を受診されました。
【診察】
腹痛が起こった後に時々下痢することもあるとのことで、
- 慢性膵炎などの膵臓疾患
- クローン病などの小腸疾患
- 潰瘍性大腸炎・感染性腸炎などの大腸疾患
- ストレスや不安で起こる過敏性腸症候群
などが原因として考えられ、血液検査・エコー検査・大腸カメラを行い状態を確認することとしました。
【検査】
腹部レントゲンでは異常ガスなどはなく、腹部エコーでは異常所見はなく、大腸カメラも問題ない状態で、前述の潰瘍性大腸炎などの炎症性の疾患がなくても起こる過敏性腸症候群との診断となりました。
実際の大腸内視鏡の所見です。炎症などはなく、毛細血管がきれいに浮き出ている正常な状態でした。
【治療】
過敏性腸症候群とは、腸に異常がないにもかかわらず、慢性的な腹痛や便秘・下痢などの便通異常を繰り返す疾患です。
Irritable Bowel Syndromeの頭文字をとってIBS(アイビーエス)とも言われます。
もともと腸の運動や知覚は自律神経やセロトニンというホルモンが調整していますが、不安や緊張といった心因的ストレスや、不規則不摂生な生活・過労や気候の変化などの身体的・環境的なストレスが続くと、自律神経がうまく働かなくなったり、腸の粘膜からセロトニンが過剰に分泌されたりすることで、腸の運動の調整がうまくいかなくなり過敏性腸症候群が発症します。
今回のケースでは、
- 寒さ・冷えによる腸へのストレス
- 暖房の効いた室内の温かさと外の寒さのギャップによる自律神経への負担
- 寒くなると腹痛がくるという経験的な不安
が重なり、過敏性腸症候群を誘発していると考えました。
治療としては腸を温め冷えから守る漢方と体を温め自律神経への負担を軽減する漢方を使用し経過を見ることとしました。
【経過】
薬を飲み始めてしばらくするとお腹の冷えを感じることが減ってきて、それに伴い腹痛も気にならなくなってきたとのことでした。
1か月ほどたつと腹痛はほぼなくなり、もともとあった冷え症も改善したとのことで、非常に喜んでいただけました。
冬の時期以外にも、季節の変わり目や夏の冷房の時期も腹痛を感じることがあるとのことでしたので、漢方はそのまま常用を続けてもらうこととしました。
※漢方は無理に体を温めるものではなく適度な体温に保つような働きですので、1年中飲んでいただいても問題ありません。
ただ症状が過敏性腸症候群に合致する場合でも、調べてみると実は過敏性腸症候群ではなく、実は潰瘍性大腸炎といった他の病気の可能性もあるため、
まず最初に大腸カメラなどの検査を行い本当に過敏性腸症候群が見極めた上で治療を行っていくことが重要です。
症状でお悩みの方はお力になれると思いますので当院までご相談ください!
過敏性腸症候群のQ&A
A:感染性胃腸炎(食あたり)なども原因になります。
感染性胃腸炎を起こした後に約10%程度の方に発症し、実は過敏性腸症候群の1/6程度は感染性胃腸炎が要因となっており、少なくとも胃腸炎後2-3年は過敏性腸症候群の発症のリスクが高いという研究結果があります
胃腸炎後に過敏性腸症候群を起こしやすくなるリスクとしては、女性・若年・心理的問題・胃腸炎自体の程度が強いことが関連していると言われています。
胃腸炎後の過敏性腸症候群は、胃腸炎が治っていないと誤診されてしまうことも多く、適切な治療を受けれずにいつまでも症状に悩ませることもあるため、胃腸の専門施設でしっかりと診断を受けることが大切です。
参考文献;Longstreth GF, Hawkey CJ, Mayer EA, et al. Characteristics of patients with irritable bowel syndrome recruited from three sources: implications for clinical trials. Aliment Pharmacol Ther 2001; 15: 959-964
Thabane M, Kottachchi DT, Marshall JK. Systematic review and meta-analysis: the incidence and prognosis of post-infectious irritable bowel syndrome. Aliment Pharmacol Ther 2007; 26: 535-544
Barbara G, Grover M, Bercik P, et al. Rome foundation working team report on post-infection irritable bowel syndrome. Gastroenterology 2019; 156: 46-58.e7
A:遺伝が関与することが分かっています。
決定的な原因遺伝子はまだ解明されてないものの、セロトニン関連遺伝子や腫瘍壊死因子 TNFSF15 遺伝子と 過敏性腸症候群 の関連があることが分かっています。
今後原因遺伝子の解明が進み、過敏性腸症候群の新たな治療法ができることも期待されています。
参考文献:Czogalla B, Schmitteckert S, Houghton LA, et al. A meta-analysis of immunogenetic Case-Control Association Studies in irritable bowel syndrome. Neurogastroenterol Motil 2015; 27: 717-727
Q:過敏性腸症候群の診断に大腸内視鏡(大腸カメラ)は必要ですか?
A:基本的には必要と考えます。
過敏性腸症候群の代表的な症状である「腹痛や下痢・頻便感・お腹の渋り感」などは、大腸がん・潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患などの他の病気でも起こりうるため、大腸内視鏡を行い否定しておくことが重要です。
実際に過敏性腸症候群 が疑われている患者さんに大腸内視鏡を行うと約30%に何らかの器質疾患が見つかったというデータもあります。
症状が似ていても、過敏性腸症候群とほかの病気では治療内容が全く異なり、特に大腸がんや炎症性腸疾患は進行性に悪化するため、症状がある場合にはまずはきちんと検査を行いましょう。
参考文献:Gu HX, Zhang YL, Zhi FC, et al. Organic colonic lesions in 3,332 patients with suspected irritable bowelsyndrome and lacking warning signs, a retrospective case: control study. Int J Colorectal Dis 2011; 26: 935-940
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文責:巣鴨駅前胃腸内科クリニック院長 神谷雄介
(消化器学会・内視鏡学会専門医)