なぜ機能性ディスペプシアは治らないの?その4つの理由と治療法とは?
「機能性ディスペプシアと診断されて治療を受けたが治らない」
「薬をやめると再燃してしまう。」
「病院に通院しているが“もうこれ以上治療法がない”と言われた」
当院を受診される患者さんからよくこのような相談を受けます。
確かに機能性ディスペプシアは治療に難渋することも少なくなく、多くの患者さんが悩まされています。
ただ、患者さんの状態をしっかりと把握し適切な治療を組み合わせて行うことで、より深いところから機能性ディスペプシアを治しや予防を行うことができます。
そもそも機能性ディスペプシアとは?
機能性ディスペプシアとは「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患が ないのにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」であると定義されています1)
つまり、「検査しても何も異常がないにも関わらず、胃の症状で悩まされる状態」といえます。
原因としては
もともとの体質的な要素(遺伝的要因2)・生育環境3)・胃の形4)・胃内細菌叢5)など)に加えて、外的な要因(ストレス6)、感染性胃腸炎7)、運動・睡眠・食事内容や食習慣などのライフスタイル8))などが加わり、胃・十二指腸の運動異常・胃酸分泌過多・内臓知覚過敏などが生じ症状が発症します。
機能性ディスペプシアは日本人の10%程度に見られ1)、実際に胃痛・胃もたれなどの胃の症状を訴えて受診する方の約半数が機能性ディスペプシアが原因と言われています。
なぜ機能性ディスペプシアは治らないの?
①薬があっていない
機能性ディスペプシアの直接的な要因としては
- 胃と十二指腸の運動異常
- 胃酸分泌過多
- 内臓知覚過敏
が挙げられます。
ご自身の症状が上記のどの状態によって引き起こされるのかをしっかり把握した上で投薬を行わないと症状を治すことができません。
実は同じ「胃もたれ」の症状についても、胃の動きが落ちて食事が滞留しておこるのか、胃酸の分泌過多によってもたれが生じるのか(胃酸は出すぎても粘膜を刺激して胃もたれ感を感じます)によって使う薬が全く変わります。
治療ガイドラインでもまず最初の治療と位置づけされる制酸剤は、胃酸分泌過多の症状には効きますが、動きが落ちて胃もたれが出ている方には全く効果がない薬となります。
ですので、ただ漫然と投薬を行うのではなく、症状から胃の状態を考え検査を行い、機能性ディスペプシア症状をもたらす直接的要因を把握して適切な薬を使用することが大切です。
②外的因子が解決していない
機能性ディスペプシアの症状の原因となる胃の運動異常・胃酸分泌過多などは、外的因子(ストレスやライフスタイルなど)によって引き起こされます。
適切な薬を使い胃の機能のコントロールを行っても、強いストレスがつづく場合や機能性ディスペプシアの引き金になっているライフスタイルを変えないと、症状が中々取れなかったりぶり返しやすくなります。
当院では投薬治療を行うと同時に、適切な食事指導やライフスタイルの改善指導なども治療の一環として合わせて行い、治療の効率化・再発予防にも取り組んでいます。
③体質的な要因に対しての治療が難しい
同じようなストレス環境やライフスタイルであっても機能性ディスペプシアを発症する人とそうでない人がいます。
これには図の一番上にあたる「体質的な要因」が関わってきます。
残念ながら遺伝的な素因や胃の形などを変えることはできませんが、“胃内細菌叢によって形成される胃内環境”をコントロールすることで機能性ディスペプシアになりやすい体質を変えていくことができます。
健常な方と機能性ディスペプシアの方とで胃液の細菌叢構成を調べてみると、機能性ディスペプシアの方では典型的な腸内常在菌属であるバクテロイデス属、ビフィドバクテリウム属などに加え、病原性を持つエスケリキア属が多数検出されています。
機能性ディスペプシアの方に特定の乳酸菌の摂取を続けてもらうことで胃内細菌叢の異常の大部分が是正され胃の症状も改善していたとの報告があり5)、症状の発症に関わっている可能性が示唆されています。
現在の所は薬として胃内細菌叢を是正するようなものはありませんが、当院ではオリジナルの胃由来の乳酸菌のサプリを使用することで胃内環境を適正化する診療を行い、より深い部分での機能性ディスペプシアの治療にも取り組んでいます。
④そもそも診断が間違っている
機能性ディスペプシアは「検査しても何も異常がないにも関わらず、胃の症状で悩まされる状態」を指しますが、実際に機能性ディスペプシアと診断されている方の中に、別の病気の方がおられることがあります。
当院でも他院で機能性ディスペプシアと診断され治らないと受診された方で、調べてみると胃がんが見つかったり膵炎がみつかったりすることもあります。
これは機能性ディスペプシアの診断にあたり症状や年齢だけで判断されてしまい、きちんと検査をしないことが原因であり、胃カメラ・腹部エコー・レントゲン・血液検査などを行い病気が潜んでいないかを見極めることが重要です。
治療は?
■内服薬■
①制酸剤
胃酸の分泌過多を正常化する薬で、文字通り酸分泌過多の場合に用います。制酸剤にも種類がいくつもあり、作用の強弱や特性を考え症状に合わせて薬を選択します。
②消化管運動改善薬
胃の動きを改善する薬剤で、動きの低下による張りやもたれ、食欲不振・嘔気などを改善します。こちらもかなり種類があるため、適切な薬を選択することが重要になります。
■漢方薬■
漢方薬も機能性ディスペプシアには有効な治療の一つです。粘膜の知覚過敏を抑えたり、動きを健全化させてくれる作用があるものをご自身の症状に合わせて用います。
また漢方には「胃が弱い」といったような体質を改善するのにも役立ちます。
■胃のサプリi-katsu■
機能性ディスペプシアの発症には前述のように胃内細菌叢の変化が関わっているとの報告があり、当院では胃内細菌叢を改善させたり胃酸の分泌過多や動きを改善させるオリジナルサプリ“i-katsu”を用いた治療も行っております。
■生活習慣の改善■
食生活の見直し、ストレスが多い場合は休養など
①高脂肪食を避ける
脂肪分は胃の動きを低下させる作用があるため、もたれ感や張り・違和感などの要因になります。
特に揚げ物やクリームの多いデザートなどは避けたり、2食連続して食べないように心がけましょう。
②アルコール、香辛料、高カフェイン(ブラックコーヒーなど)
胃の粘膜を刺激して酸の分泌が強くなるため、症状が出ている際には避けるようにします。
③早食いをしない
食事が形が大きいまま胃の中に入れたり、胃の中に入ってくる量が多いと、とどまる時間も長くなり消化に時間もかかるため、張りや胃もたれの要因になったり、胃酸の分泌も増加し胃痛の要因になります。
また、胃は食事開始後15~20分で動きが強まってくるため、胃の動きに合わせて早食いをせずゆっくり食べることで、症状が出にくくなります。
さらにしっかりとよく咀嚼することで、迷走神経という自律神経が刺激され、胃が動きもよくなるというよい循環が生まれます。
④回数を分ける
ゆっくり食べてもすぐ満腹になったり、食欲が出ない場合は、一回の量を抑えて回数を増やす方法もあります。
無理矢理食べることで、胃に負担になったり、そのことがストレスになりさらに機能性ディスペプシアを悪化させることもあるため、症状が安定するまでは1日5-6食に分けて頂くこともあります。
実際の治療例
①30代 男性 機能性ディスペプシアが治らない
【症状】
3年ほど前に急性胃腸炎になり、胃腸炎自体は改善したものの、その後から食後の胃痛と嘔気が続いており、他院にて機能性ディスペプシアと診断され、いくつかの医療機関で投薬治療を受けましたが改善なく、当院を受診されました。
【問診・診察】
腹部の触診上は大きな異常はありませんでしたが、ご本人が食後に痛みを感じる部位は心窩部といういわゆるみぞおちの辺りで、胃や十二指腸・小腸・膵臓などが原因となり痛みを感じる部位でした。
以前に受診された医療機関にて、胃の内視鏡検査やCTなどの検査などは施行され異常はなかったとのことでしたが、以前の検査から3年ほど経過していることと、ご本人が再度当院で検査を受けたいとのことで、胃内視鏡(胃カメラ)・腹部エコー・血液検査などを行うこととしました。
【検査】
腹部エコーでは、膵臓を含め、肝臓・胆のうなどの心窩部周囲の臓器に異常は認めず、血液検査も問題所見はなく、胃内視鏡検査でも異常所見はありませんでした。
また、今回はご本人の希望で小腸に異常がないかも確認したいとのことで、小腸カプセル内視鏡も施行しましたが、こちらも問題なく、当院でも機能性ディスペプシアとの診断に至りました。
【治療】
感染性胃腸炎(いわゆる食当たり)を起こした後に、機能性ディスペプシアを発症する方が時におられます。
感染を起こしたことによる身体的なストレスや、菌の感染や治療時の抗生剤による腸内細菌叢・胃内細菌叢の変化などが発症の要因と推察されます。
今までの治療で様々な内服薬を試したものの、改善が今一つとのことでしたので、原因の一つと考えられる細菌叢の改善を目指し、内服薬に加えサプリを追加して飲んで頂き経過を見ることとしました。
<治療内容>
当院で作成したオリジナルサプリのi-katsuには、胃酸分泌の正常化や胃内細菌叢の改善、胃の動きの改善を期待できる成分が含まれています。
いずれも薬とは異なる作用機序のため、今までの治療が効かない場合にも効果がでる可能性があるため、試して頂きました
※前医の薬の継続及び内容の見直し
消化管運動改善薬
嘔気の原因には胃の動きの低下があり、動きを改善する薬を使用しました。
制酸剤+粘膜保護剤
胃酸分泌過多を抑え、胃の粘膜保護することで胃の痛みを抑えます。
【経過】
服用を始めてしばらくすると、痛みも嘔気も頻度・程度ともに減ってきたとのことでした。
2週間目の再診時には症状は半分くらいになった印象とのことであり、もう2週間治療を継続し、1か月目の再診時には症状はほぼなくなったとのことで、内服は一旦中止しました。
その後も、症状は落ち着いていますが、i-katsuを飲むと胃の調子が良い気がして食事もおいしく食べれるとのことであり、継続して頂き、経過を見ております。
※サプリは薬と違い、通常は副作用が出ることがないため長期でも安全に飲んでいただけます。
機能性ディスペプシアは、時に治療に反応が悪く症状が長引くこともありますが、薬の種類を変更したり、サプリなどの薬とは違う作用機序のものを使うことで症状が改善するケースもあります。治らない場合はサプリを試してみるのも選択肢の一つです。
②20代 女性 “薬を飲んでも治らない胃もたれ”
【症状】
数年ほど前から食後の胃もたれに悩まされており、他院で胃内視鏡(胃カメラ)などの検査を受けるも異常はなく、機能性ディスペプシアと診断され投薬治療を受けていましたが改善なく、いくつかの医療機関で相談してもやはり改善なく当院を受診されました。
【診察】
ご本人からは「本当に機能性ディスペプシアなのかもう一度調べてほしい」との希望があり、内視鏡の再検査・腹部エコー・血液検査などを行いましまた。
【検査】
当院での検査でもやはり症状の原因となるような異常はなく、機能性ディスペプシアと診断しました。
【治療】
機能性ディスペプシアは、食道や胃・十二指腸、その他の内臓に病気がないにも関わらず、胃の機能の異常(※)や、食道・胃の粘膜の知覚過敏などで、痛み・はり・もたれ・吐き気などが起こる状態です。以前は「神経性胃腸炎」や「胃が弱い」などと表現されていた疾患になります。
※胃の機能
胃酸の分泌:胃酸が分泌過多になると粘膜を刺激して不快感や痛みの原因になります。
食べ物の排出:胃の排出機能がおちると、もたれや吐き気・張りや食欲不振が起こります。
原因としてはストレスや疲れ・不規則な生活(アルコール・不眠・疲れ)などの外的な要因で胃の動きをコントロールしている自律神経の乱れが生じたり、胃の粘膜に負担がかかることで胃が機能異常を来し、胃酸分泌過多や胃の排出機能の低下や膨らみの低下といった運動異常が起こります。
そして同じようなストレス環境や生活環境にあっても症状を発症する方とそうでない方がいるのは、遺伝や胃の形の違い、胃内細菌叢などの体質的な要素も関わってきます。
胃もたれは胃酸の分泌過多・胃の動きの低下のどちらでも生じえますが、胃酸を抑えすぎると消化力が落ちてしまい逆にもたれ感が強まってしまいます。
今までの医療機関ではPPIと呼ばれる強めの制酸剤を使用していたこともあり今回は制酸剤については使用せず、過剰な胃酸分泌を抑えつつ必要以上に低下させることのないサプリ“i-katsu”を使用して胃酸の分泌を適正化することとしました。
また併せて胃の動きを改善する薬を用いて、もたれ感に対しての治療を行いました。
関連ページ:i-katsuの働き
<治療内容>
i-katsu:胃酸分泌適正化
胃機能調整薬:胃の流れを改善
【経過】
治療開始直後はあまり以前と変わらないとのことでしたが、飲み続けるうちに徐々に胃もたれ感がとれ、2週間後には胃もたれ症状は半分くらいの程度まで改善してきたとのことでした。
そのまま治療を続けたところ、1か月を過ぎたあたりからさらに改善し、2か月後にはほとんど胃もたれを感じなくなるまでに改善しました。
ご本人よりサプリは継続したいとの希望があり、再発予防の意味合いも含め継続していただいております。
機能性ディスペプシアで起こる症状については、どういう状態で生じた症状なのかをしっかりと把握しそこに対しての適切な治療を行わないと改善が得られないことも多く、薬を飲んでも改善しない場合は治療法を切り替えてみることも重要です。
当院では薬で改善しないような方には、サプリや漢方なども積極的に用いて状態に合わせた治療を行っております。
※i-katsuを用いた今回以外のの治療は「i-katsuの治療例」にてご覧いただけます
参考文献
1)日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア
2)Song YZ, You HY, Zhu ZH, et al. The C825T polymorphism of the G-protein β3 gene as a risk factor for functional dyspepsia: a meta-analysis. Gastroenterol Res Pract 2016; 2016: 5037254(メタ)
3)Drossman DA, Talley NJ, Leserman J, et al. Sexual and physical abuse and gastrointestinal illness: review and recommendations. Ann Intern Med 1995; 123: 782-794(メタ)
4)Kusano M, Hosaka H, Moki H, et al. Cascade stomach is associated with upper gastrointestinal symptoms: a population-based study. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 451-e214
5)Nakae H, Tsuda A, Matsuoka T, et al. Gastric microbiota in the functional dyspepsia patients treated with probiotic yogurt. BMJ Open Gastroenterol 2016; 3: e000109
6)Henningsen P, Zimmermann T, sattel H. Medically unexplained physical symptoms, anxiety, and depression: a metaanalytic review. Psychosom Med 2003; 65: 528-533(メタ)
7)Futagami S, Itoh T, Sakamoto C. Systematic review with meta-analysis: post-infectious functional dyspepsia. Aliment Pharacol Ther 2015; 41: 177-188(メタ)
8)Duncanson KR, Talley NJ, Walker MM, et al. Food and functional dyspepsia: a systematic review. J Hum Nutr Diet 2018; 31: 390-407(メタ)
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