実際の治療例 “検診でピロリ菌を指摘されたが放置していたら十二指腸潰瘍になった”
当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
50代男性 検診でピロリ菌を指摘されたが放置してしまっている
【症状】
数年前から人間ドックでピロリ菌陽性を指摘されていましたが、自覚症状がないため放置している状態でした。
2週間前頃から空腹時に胃の痛みが続くようになり心配で当院を初診されました。
【診察】
空腹時に感じる胃の痛みは
- 十二指腸潰瘍
- 胃酸分泌過多などの胃の機能異常
などの患が原因として考えられ、特にピロリ菌がいる方には胃潰瘍・十二指腸潰瘍のリスクがあるため、胃内視鏡(胃カメラ)にて状態をチェックすることにしました。
【検査】
胃内視鏡(胃カメラ)を施行したところ、胃にピロリ菌由来の萎縮性胃炎および十二指腸に潰瘍を認め、ピロリ菌による十二指腸潰瘍と診断しました
関連ページ:・胃内視鏡(胃カメラ) ・十二指腸潰瘍 ・胃・十二指腸潰瘍瘢痕
【治療】
十二指腸潰瘍はピロリ菌や薬剤性で発症する粘膜障害で、粘膜が炎症を起こして表面がえぐれてしまう状態です。
胃や十二指腸の粘膜は常に胃酸にさらされていますが、健康な状態では粘膜の防御機能によって胃酸により粘膜が傷つかないようになっています。
ただ、ピロリ菌や痛み止めの薬などによりこの防御機能がうまく機能しなくなり、粘膜が傷つきただれてしまい、ついには一部が欠損し潰瘍になってしまいます。
十二指腸潰瘍は空腹時のみぞおちの痛みとして感じることが多く(逆に胃潰瘍の場合は食後の胃痛として感じることが多いです)、悪化すると潰瘍から出血したり穿孔(胃に穴が開くこと)し、緊急内視鏡や緊急手術になることもあります。
今回は潰瘍の程度はひどくなく出血もないことから薬で治療することとしました。
<治療内容>
①制酸薬
胃酸の分泌過多を抑える薬です。胃酸分泌を抑えることで、胃の粘膜の再生力で潰瘍は治癒していきます。今回はプロトンポンプ阻害薬(PPI)という薬を処方しました。
②粘膜保護薬
粘膜の防御機能を高め、潰瘍による胃痛を抑え改善をより早めます。
③食事指導
食事についてはしばらくの間は刺激の少ない粥食や消化のよい和食系のものを召し上がっていくこととしました。
【経過】
投薬開始翌日には痛みは取れ、2週間後の再診時には痛みはほぼなくなったとのことでした。食事は通常食に戻し内服を続け、1か月後の再診時もほぼ問題ない状態でした。
十二指腸潰瘍は90%近くがピロリ菌が原因となっており、今回もピロリ菌が陽性であったため除菌も行うこととしました。
(実際にピロリ菌除菌後の潰瘍の再発率は 1~2%と極めて低いことが報告されています※1。詳しくは、ピロリ菌と潰瘍の関係を参照ください。)
抗生剤と制酸剤の組み合わせを1週間飲んでもらい、1か月後に再診をして頂き、呼気検査にてピロリ菌の除菌成功を確認しました。
ただ、ピロリ菌除菌後も胃がんのリスクがあるため※2、胃カメラは定期的に行っていく方針としています。
十二指腸潰瘍や胃潰瘍だけでなく、胃がんの原因のほとんどがピロリ菌が関与していることが分かっており、実際にピロリ菌がいない方はこれらの病気にはほとんどかからないことがわかっています。(※ただし、極まれですがピロリ菌が関与しない潰瘍や胃がんもあります。)
ドックや検診でピロリ菌を指摘された時点で症状がなくとも、今回のように十二指腸潰瘍を起こしたり将来的な胃がんのリスクにもなり得るため、ピロリ菌を指摘された際には医療機関を受診し、胃内視鏡検査や除菌治療を行うことが重要です。
参考文献:※1Miwa H, Sakaki N, Sugano K, et al. Recurrent peptic ulcers in patients following successful Helicobacterpylori eradication: a multicenter study of 4940 patients. Helicobacter 2004; 9: 9-16
※2Sugano K. Effect of Helicobacter pylori eradication on the incidence of gastric cancer: a systematic review and meta-analysis. Gastric Cancer 2019;
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