実際の治療例 “3日前から腹痛・下痢・血便が続いている”
当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
50代 男性 3日前から腹痛・下痢・血便が続いている
【症状】
3日前の起床時から腹痛が出現し、午後から水下痢が始まり夕方から血便が出現。
近くの内科を受診し整腸剤を処方されましたが、治らないとのことで当院を受診されました。
【診察】
触診では腹部全体に腹痛があり、やや右下腹部に痛みが強く出ていました。
水下痢は血液交じりで1日10回以上起こっている状態で、症状からは、
- 虚血性腸炎
- 感染性腸炎
- 潰瘍性大腸炎
などの大腸炎を疑いました。
前医では特に検査をしておらず、腹部エコーや血液検査で状態を評価してみることとしました。
【検査】
腹部エコーでは大腸に炎症による癖肥厚および血液検査にて炎症反応の上昇があり、大腸炎であることがわかりましたが、
実際のエコー画像です。大腸(オレンジ線で囲まれた部分)の壁が肥厚し(矢印部分)浮腫を起こして黒い部分が広がっています。大腸炎の所見です
潰瘍性大腸炎なのか感染性腸炎なのかの診断までには至らず、ご本人と相談し大腸カメラ(大腸内視鏡)を行い状態を確認することとしました。
大腸カメラでは大腸内にまだらなびらん・発赤を認め、特に最深部の大腸と小腸のつなぎ目(バウヒン弁)に強い炎症を認めました。
内視鏡所見からはカンピロバクターと呼ばれる細菌の感染を強く疑う所見で、この部位からの細菌培養検査でカンピロバクター菌も検出され、カンピロバクター腸炎と診断しました。
実際の大腸カメラの画像です。大腸と小腸のつなぎ目のバウヒン弁と呼ばれる部分(青線で囲まれた部分)に出血やびらんなどの炎症を認めました(緑矢印)
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【治療】
カンピロバクター菌による食中毒は、生や加熱があまりなされていない鶏肉(鶏刺し、鶏のタタキ、バーベキュー・鶏鍋・焼き鳥などでの加熱不十分な鶏料理)、あるいは鶏肉から調理過程の不備で二次汚染された食品(生肉を切った包丁やまな板でそのまま調理された料理)などを摂取することで発症します。
食べてからすぐ発症することは少なく、一定の潜伏期間(2~5日、長い時は1週間程度)後に発症します。
症状は腹痛・下痢が多く、今回のように血便を伴ったり、発熱や嘔吐を来す場合もあります。
今回も問診で確認すると、最初に症状がでた日の4日前に焼き鳥を食べたのことで原因の可能性が高いと考えました。
<治療内容>
①内服治療;整腸剤 漢方薬
下痢・腹痛といった胃腸炎症状を和らげます。
②抗生剤
今回のように症状や炎症が強く悪化の懸念がある場合に使用します
③食事指導
下痢による脱水予防のためOS1やポカリスエットなどの体に吸収されやすいものをこまめに摂取していただくこと、炎症のため消化吸収機能が十分に働かないためおかゆなどの消化しやすいものを召し上がっていただくこととしました。
【経過】
治療開始後2日目くらいから血便はなくなり、下痢・腹痛の頻度も減少、その後も日を追うごとに改善し5日後に再診頂いた際にはほぼ改善している状態でした。
カンピロバクター腸炎後発症後1-3週間後に、手足のの筋力低下・麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」と呼ばれる神経疾患をを発症する場合があるため、該当する症状が発症した場合にはすぐに再診していただくようにお伝えし、今回は治療終了となりました。
(その後もギランバレー症候群の発症による再診はありませんでした。)
カンピロバクター腸炎を含め胃腸炎後は過敏性腸症候群になるリスクがあることが分かっており1)、発症初期段階でしっかりと診断し適切な治療を行うことが大切です。
◆関連ページ
- カンピロバクター腸炎:カンピロバクター腸炎について詳細にまとめております
また症状が長引く場合・薬が効かない場合や血便を伴う場合は、感染性腸炎の他に潰瘍性大腸炎や大腸がんなどの病気も考えられるため、腹部エコーや大腸内視鏡(大腸カメラ)を行い実際に大腸の状態を確認することが重要です。
症状でお困りの方はお力になれますので一度ご相談ください!
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文責:巣鴨駅前胃腸内科クリニック院長 神谷雄介
(消化器学会・内視鏡学会専門医)
参考文献:
1)Barbara G, Grover M, Bercik P, et al. Rome Foundation working team report on post-infection irritablebowel syndrome. Gastroenterology 2019; 156: 46-58.e7 , 過敏性腸症候群ガイドライン2020:p5-6
一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65