腹部違和感(はり・もたれ)外来
「なんだかお腹が張ったような、重たいような気がして気になる」
そんな症状はけっこうよくあることで、よくあるがゆえに様子をみてしまうこともしばしばです。
また、気にはなるけど、痛みがないので“いつか病院にでも行ってみるかな”と思いつつそのいつかがなかなか来なかった、というのもよく伺う話です。
確かに痛みがなければ様子を見てしまうことも多く、実際にその違和感の正体は、
- 食べ過ぎ・食生活の乱れやストレスなどによる胃や腸の動き低下
- 胃や大腸などの内臓の知覚過敏
といった、病気というより胃や腸の調子の問題によることが多いのも事実です。
ただ、それだけではなく、時に大きな病気のサインだったりするケースもあり、また食後の胃もたれや慢性的な胃やお腹の張った感じなどの違和感があると、気になって仕事や勉強に集中出来なかったり、食事が美味しく食べられなかったりと、日常生活の妨げになることも少なくありません。
そのような違和感の原因を突き止め、隠れた病気を見つけたり、日常生活をより快適に過ごすためのお手伝いをさせていただく外来です。
<目次>
2.検査は?
3.治療は?
4.実際の治療例
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1.腹部違和感の原因は?
胃や腸の動きの低下や知覚過敏などの機能的な問題で起こる場合と、病気で起こる場合があります。
まずは、機能的な問題で起こる場合について触れたいと思います。
もともと、胃や腸などの臓器は自分で動かそうと意識しないでも勝手に動いている臓器で、この動きをコントロールしている神経を自律神経と言います。
ストレスや疲れ・不規則な生活が重なると、自律神経の動きが乱れ、結果的に胃や腸の臓器の動きが低下してしまうことで、食物やガス・便がうっ滞し腹部の「はり」や「重たい感じ」が起こってしまいます。
また、胃や腸の粘膜は非常にデリケートなので、ストレスによって知覚過敏になることもあり、通常の胃酸の刺激や腸の動きを違和感・痛みと誤認してしまうこともあります。
(このような機能の問題で起こる病気を機能性ディスペプシア・過敏性腸症候群:IBSと呼びます。)
また、病気の場合は
・胃がんや大腸ガンなどによる食べ物やガスの通過障害
・腹水
・腸閉塞
・腸炎
・SIBO(小腸の細菌の異常な繁殖によって生じる疾患)
など、他にもたくさんありますが、胃や腸だけでなく、腹部の様々な臓器の病気によって起こります。
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2.検査は?
<問診・触診>
症状の状況、発症時期、持続時間などを伺い、触診を行い症状のある部位を確認します。
<血液検査>
問診で疑われる症状の原因となりうる臓器の数値の異常がないかをみます。
<エコー・レントゲン>
違和感や張りの原因となる腹水や腸閉塞の有無、腸炎などがないかの確認や腹部のガスの溜まり具合を体の外側から確認し、症状の原因を探します。
<胃カメラ(胃内視鏡)>
症状の原因が胃がんやピロリ菌など胃や十二指腸などの上腹部の消化管に疑われた場合に行います。
<大腸カメラ(大腸内視鏡)>
症状の原因が大腸がんや大腸炎など、大腸にあると疑われた場合に行います。
<小腸カプセル内視鏡>
症状の原因が小腸疾患の可能性がある場合に行います。
※当院はいずれも無痛内視鏡にて検査を行っております。
関連ページ:
・腹部エコー ・胃内視鏡(胃カメラ) ・大腸内視鏡(大腸カメラ) ・カプセル内視鏡
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3.治療は?
病気による場合は、その病気の治療をしっかりと行います。
病気ではなく、ストレス・食生活による胃腸の動き低下や粘膜の知覚過敏の場合は、原因となるストレスや食生活を問診や診察の中から見つけ改善方法を一緒に考えていくと同時に、症状を取り除く薬や、胃の機能を改善させるための薬も使います。
昔から胃が弱い体質・腸が弱い体質と言われているように、このような症状には体質が関わっていることも少なくないため、体質自体を改善し今後も症状が出にくくなるような漢方薬やサプリも使っていきます。
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4.実際の治療例
- ケース① 50代 女性 腹部のはり・便がすっきり出ない
- ケース② 20代 男性 食べてすぐ胃が張る
- ケース③ 50代 男性 なんとなく胃がもたれる
- ケース④ 60代 男性 お腹が張った状態が治らない
- ケース⑤ 40代 女性 ガスが溜まってお腹がはる
【症状】
数か月前から何となく下腹部の違和感を感じていましたが、痛みはないため様子を見ていました。
2か月ほど前からは週3日程度お腹の張りを自覚するようになり、ここ2週間ほどは張りを常に感じ、便もすっきり出ないとのことで当院を受診されました。
【診察】
触診では腹部ガスによる鼓音と張りを認め、また問診にて便は少量で液状のことが多いとのことであり、大腸の通過障害による症状を疑いました
【検査】
腹部レントゲンでは大腸のガスによる腸管の拡張を認め、
腹部エコーでは大腸に腫瘍性の狭窄を疑う所見があり、大腸がんを疑い大腸カメラ(内視鏡)を施行しました
大腸カメラではS状結腸に腫瘍を認め、生検にて大腸がんと診断しました。
がんが大腸の内腔を圧排し通り道が細くなることで、ガスや便が出にくくなり違和感や張り・便がすっきり出ないといった症状が生じている状態(通過障害)でした。
【治療】
状態としてはすでに進行がんで内視鏡では治療困難な病変であり、手術が必要な状態でした。
がん治療拠点病院に紹介し、同院で手術を受けて頂きました。
【経過】
手術にて病変は取り除けたものの将来的なリンパ節転移の可能性が残るため術後化学療法(抗がん剤治療)を行いました。
その後、幸いにも今のところは術後の転移はなく経過観察を続けておられます。
大腸がんは進行性の悪性腫瘍で初期は症状が出ることはありませんが、進行すると腸管内を圧排して腹部の違和感や張りが出てくることがあります。
ただ、いきなり症状が出るわけではなく、進行するにしたがって症状が出てくるので、症状も数か月単位で徐々にひどくなっていくことが多いです。
がんは進行すると手術だけでは治療が完結せずに抗がん剤治療を行う必要が出たり、場合によっては末期になり治療ができないケースもあるので、腹部の違和感や張りを感じ、1-2週間様子をみても改善がない場合は、その時点で大腸カメラ(大腸内視鏡)などの検査を受けることで、悪化する前に病気を見つけることができます。
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【症状】
以前から食は細い方とのことでしたが、1か月ほど前から食事をするとすぐに胃が張って満腹になるとのことで当院を受診されました。
【診察】
触診では特に異常はなく、1か月半前から転職をして職場の環境に慣れていないなどのストレス環境があるとのことから、機能性ディスペプシア(特に疾患があるわけではないのに胃の機能の調整機能が崩れて起こる症状)を疑いました。
【検査】
実際に症状を起こすような病気がないかをチェックするため腹部レントゲン・腹部エコー・胃カメラなどの検査を行いました。
腹部レントゲンでは異常ガスなどはなく、腹部エコーでも肝胆膵などの上腹部の臓器に異常は認めませんでした。
胃の中の病変のチェックのため胃カメラも行いましたが、胃のポリープを認める程度でピロリ菌もなく、症状の原因となる病変はない状態でした。
※今回見つかった胃のポリープは胃底腺ポリープと呼ばれる治療の必要ない良性ポリープで、症状の原因とはならないものです。
【治療】
検査では特に病気はなく、機能性ディスペプシアと診断し、投薬治療を行いました。
食後すぐの胃の張りは、胃の動き(弛緩・排出)といった機能の調整不良で起こることが多く、胃の動きを改善する薬(アコチアミドと漢方)を投薬して経過を見ることとしました。
【経過】
アコチアミドは胃の弛緩や排出機能を改善し腹満感や張りを和らげてくれるというデータがしっかりと証明された薬1)で、機能性ディスペプシアのガイドラインでも推奨されています2)。
実際に2週間後の再診の際に状態を伺うと、投与開始して5日程経つと症状が少しづつ緩和し、再院時には食後の張りがまだ若干気にはなるが、来院前からすると良くなってきた状態とのことで、今回も効果を発揮してくれました。
もともとは職場環境の変化というストレスを機に発症した機能性ディスペプシアと考えられますが、ご本人も徐々に職場に慣れていけそうとのことで、しばらくは投薬を継続し、8週目の再診時には症状はほとんど改善したとのことでアコチアミドは中止としました。
以前から食が細いのも気になっているとのことで、体質的な部分を改善するため漢方は継続し、また当院オリジナルサプリのi-katsuのに含まれるダイダイ・麦芽・萊菔子は胃の運動を促進し食欲を増幅させる作用があるため3)、あわせてi-katsuも飲んで頂くこととし、現在では以前に比べると食事量も増えてきたとのことであり、このまま漢方とサプリを継続していく方針としています。
参考文献:
1)Nakamura K,et al:J Gastroenterol 52(5):602,2017 2)日本消化器病学会編 :機能性消化管疾患ガイドライン2021 3)堀江 俊治等 和漢医薬学雑誌 24(Supplement), 79, 2007-08-20
◆関連ページ◆
・ 胃底腺ポリープ ・機能性ディスペプシア ・胃内視鏡(胃カメラ)
【症状】
以前からなんとなく食後にすっきりしない感じや常に胃がもたれる感じがあり、かかりつけ内科にて胃薬が出ましたがあまり改善なく、胃腸科での診察を勧められ当院を受診されました。
【診察】
触診上は特に異常所見は認めませんでしたが、胃カメラは10年以上前に受けたのが最後とのことで、まずは胃カメラを行い状態を確かめることとしました。
【検査】
胃カメラではピロリ菌などもなく、特に問題のない状態でした。
症状と合わせて、胃の機能の異常や胃の粘膜の知覚過敏によって起こる機能性ディスペプシアと考えました。
【治療】
もたれ感については、胃の排出機能の低下や胃酸の分泌過多で感じることが多く、今回もそういった機能異常を改善することをターゲットに治療を行いました。
<治療内容>
1.制酸薬
胃酸の分泌過多を抑える薬です。胃酸分泌過多を適正化してくれることでもたれを抑えてくれます。
前医にてH2ブロッカーという種類の薬を使用しており、今回はプロトンポンプ阻害薬(PPI)という薬を処方しました。
2.胃機能改善薬
胃の排出機能を高める薬になります。胃内に食事が滞留することで感じるもたれ感を改善してくれます。
3.生活習慣指導
高脂肪食は胃の中に滞留しやすくもたれ感や腹満感などの要因となりやすく1) 2)、揚げ物などは1度に多く食べすぎず、2食連続して食べないように心がけてもらいました。
【経過】
薬を飲み始めてからもたれ感は次第に改善したとのことで、1か月ほどして一旦薬をやめてみました。その後しばらくは調子はよかったものの、2週間ほどすると症状が再燃してきたとのことで、再び受診されました。
制酸剤は薬をやめた際に一時的にリバウンド反応を起こし、胃酸が分泌しやすくなることがあり、再燃もその影響が考えられました。
胃酸の分泌を正常化する成分のあるサプリを服用することで、そのリバウンドが出にくくなると言われており、薬を再開するとともに合わせてサプリを飲んで頂くこととしました。
症状自体は1週間ほどで落ち着き、サプリのみ続けてもらったところ、今回は再燃はなく、その後ももたれ感は感じることなく落ち着いています。
機能性ディスペプシアは、薬が切れると再燃することがしばしばありますが、そのような際にサプリなどを使うこともあります。
サプリ自体は薬ではなく食品ですので、通常は副作用が出ることがなく、長期に安全に飲んで頂けるというメリットもあります。
参考文献:1)Pilichiewicz AN, Horowitz M, Holtmann GJ, et al. Relationship between symptoms and dietary patternsin patients with functional dyspepsia. Clin Gastroenterol Heaptol 2009; 7: 317-322
2)Fried M, Feinle C. The role of fat and cholecystokinin in functional dyspepsia. Gut 2002; 51 (Suppl): i54-i57
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【症状】
3か月ほど前からお腹が張りを自覚。どんどん張りが強くなり、一向に改善しないため当院を受診されました。
【診察】
触診では腹部の緊満した張りを認め、腹水の貯留を疑いました。
腹部レントゲン・腹部エコーの検査を行い張りの原因を調べることとしました。
【検査】
腹部レントゲンでは異常ガスは認めませんでしたが、腹部エコーでは多量の腹水を認めました。
【治療】
血液検査では肝機能障害やたんぱく質の一種であるアルブミンの低下を認め、かなりの大酒家であり、アルコール性肝硬変が一番に考えられました。
腹水が多量で日常生活に支障が出ている状態で入院治療が必要な状態であったため、連携病院の消化器内科の肝臓担当を紹介し以後の治療を行ってもらうこととなりました。
【経過】
入院後の検査でアルコール性肝硬変との診断が確定し、禁酒・食事制限・投薬治療にて腹水はかなり減少し、1ヶ月後に退院されたとのことでした。
肝硬変になると、肝がんのリスクが高くなりますが、現時点では幸いガンはなく、禁酒と投薬治療で肝臓の専門外来の通院を続けておられます。
腹部の張りの原因の一つに腹水があります。
腹水は今回のように肝硬変で出現したり、炎症やガンなどでも起こります。エコー検査で指摘できることが多く、お腹の張りを認めた場合にはエコー検査は非常に重要になってきます。
【症状】
学生時代からガスが溜まりお腹が張る状態を度々繰り返していましたが、ここ最近は頻度が増え張りも強くなったとのことで来院されました。
【診察】
触診では腹部の鼓音を認め、やはりガスの貯留が考えられました。
次に腹部レントゲンでガスが大腸ガスなのか小腸ガスなのかを調べることとしました。
【検査】
腹部レントゲンを行うと大腸ガスを認めました。
大腸ガスの原因として大腸の閉塞や狭窄がないかを大腸内視鏡(大腸カメラ)で調べてみましたが、大腸内に特に異常はなく、
機能性のガス貯留(病気ではなく腸の働きの低下や腸内細菌の影響で生じる状態)を考えました。
便通異常は伴っておりませんが、病気があるわけではなく広義での過敏性腸症候群とも言える状態です。
【治療】
機能性のガス貯留は腸の働きの低下や腸内細菌のバランスの乱れで生じることが多く、その点を改善するような治療を行いました。
<治療内容>
腸の運動機能改善薬・漢方薬
それぞれ腸の蠕動運動などの働きを改善するような薬となります。
西洋薬と漢方薬でそれぞれ作用機序が異なるため、別々の点で作用してくれますので合わせて使うことで相乗効果も期待できます。
整腸剤
腸内細菌のバランスを整えることで動きの改善や張りの改善に役立てます。
食事指導
ガスを産生しやすくなる豆類などを極力控え、腸の蠕動を改善するように食物繊維と水分摂取を心がけるようにしました。
【経過】
しばらくはあまり変化がなく張りが気になる状態が続きましたが、10日ほどすると徐々に張り感が減ってきて、1か月ほどすると症状の程度も頻度もかなり減り、症状に対してのストレスもかなり減少した状態となりました。
症状の改善に伴い減薬や休薬も勧めましたが、ご本人が継続しておきたいと希望され現在も続けています。
今回のように過敏性腸症候群のような機能性の症状については整腸剤や漢方が有効なことが多く、いずれも副作用の出現頻度が比較的少ないため、症状の改善後も予防的に飲んでいただくこともあります。
また、同じような症状であっても、機能性でなく大腸がんなどによる大腸の閉塞や狭窄・潰瘍性大腸炎のような炎症でも起こることがあり、症状がある場合は大腸内視鏡を受けて病気がないかを確認することも大切です。
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文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
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・胃がん
・エコー
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