実際の診療例 “3日前から急にみぞおちが痛くなった(大腸憩室炎)”
当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
60代 男性 3日前からみぞおちが痛い
【症状】
3日前からみぞおちの痛みが出現し、寝れば治るだろうと思いそのまま様子をみていましたが、翌日も痛みが取れず近所のクリニックを受診し胃薬で様子を見ることとなりました。
しかし痛みは全く改善せずむしろ徐々に強くなり、その翌々日には歩くだけでも痛みが響くようになってきたため当院を受診されました。
【診察】
診察では痛みがみぞおちに限局しており、押すと強い痛みがある状態でした。
みぞおちの痛みの原因としては、
- 胃・十二指腸疾患潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がん・胃炎など)
- 胆のう疾患(胆石・胆嚢炎など)
- 膵疾患(膵炎・膵がんなど)
- 腸疾患(小腸炎・虫垂炎初期・横行結腸の炎症など)
が考えられ、まずは腹部レントゲン・腹部エコーや血液検査を行い状態を評価することとしました。
関連ページ:腹部エコー 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 胃痛・腹痛外来
【検査】
腹部エコーを行うと、痛みの場所に一致して横行結腸の憩室と周囲の大腸の壁の肥厚(図:黄色部分)が描出されました。
血液検査でも強い炎症反応が認められたことから、大腸憩室炎と診断しました。
【治療】
憩室炎は重症の場合は入院して様子を見ることもありますが、今回はご本人の希望もあり外来で治療を行うこととしました。
■治療内容■
①抗生剤
外来にて抗生剤の点滴を行い、内服薬の抗生剤を飲んで頂きました。
②食事制限
腸管を安静にし憩室部分に便による圧がかからないように、お食事は水分やスポーツドリンク、ゼリーやプリンなどの流動形のものの摂取にとどめてもらいました。
【経過】
翌日の再診では痛みはまだあるものの少し改善傾向で、血液検査での炎症反応もやや低下していました。
少なくとも悪化はなく、このままの治療方針で憩室炎の改善が見込める状態と判断し、抗生剤の点滴・内服継続としました。
3日目にはさらに痛みも炎症反応も改善し、食事は2-3日おかゆやうどんなどの柔らかいものを食べて頂くようにし、4日後に再診としたところみぞおちの痛みはなくなっており、血液検査・エコーの所見とも改善しており、憩室炎の治療は終了となりました。
みぞおちの痛み=胃の痛みと考えられがちですが、今回のように腸の炎症でもみぞおちの痛みが生じることは少なからずあります。
- 薬を飲んでも治らないみぞおちの痛み
- 歩くと響く痛み
- どんどん増強する痛み
- 発熱を伴う場合
などは胃以外の原因も考え、腹部エコーやレントゲン・血液検査などで状態を評価することも重要です。
また今回の方は比較的早期に受診して頂いたため、幸いにも憩室炎が悪化せずに外来通院で完治することが出来ました。
このように憩室炎は早期に治療を開始することが重要ですので、当院では大腸カメラで憩室を指摘された方や憩室炎の既往がある方には、腹痛や発熱などの症状があるときにはすぐに来院してもらうようにお伝えしております。
ただ、憩室炎は悪化すると穿孔といって腸が破れてしまい腹膜炎という重篤な状態に陥り緊急手術になったりするケースもあるので、炎症が強い場合や腹痛が強い場合には入院して慎重に経過を見る必要があります。
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
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