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実際の治療例 “便潜血陽性を契機に若い方に見つかった潰瘍性大腸炎”

[2025.06.04]

当院を受診された患者さんの実際の治療経過です。

20代男性 便潜血検査陽性

【症状】

特に自覚症状はありませんでしたが、会社の検診で受けた便潜血検査で陽性反応が出たとのことで来院されました。

【診察】

便潜血検査は大腸がん検診の位置づけとなる検査で、実際に便潜血反応陽性の方に大腸カメラの検査をすると3%程度に大腸がんが見つかっており、また大腸がん以外にも、大腸ポリープ潰瘍性大腸炎などの病気が見つかることもあり、大腸内視鏡(大腸カメラ)の検査を行いました。

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【大腸内視鏡】

大腸カメラを行うと大腸の左半分に細かい炎症を認め、生検を行い病理検査と合わせて「潰瘍性大腸炎」と診断しました。

実際の大腸内視鏡の画像です。粘膜全体細かな炎症を認め、表面に凹凸が目立ちます。一部には出血(黄矢印)や炎症による粘液の付着(青矢印)も認めます。

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【治療】

潰瘍性大腸炎は体の免疫機構の異常によっておこる大腸の慢性炎症です。

もともとは体内に侵入したウイルスや細菌を攻撃する免疫細胞(白血球など)が大腸粘膜や本来共存すべき腸内細菌に対して攻撃的に働いてしまい、腸の粘膜に慢性的に炎症が引き起こされます。

ただ、なぜ免疫機構の異常が起こるかということは、はっきりと分かっていません。

最近の研究では、食事内容1)、遺伝子の関与2)や腸内細菌叢の変化3)などが要因になりうるのではということが言われています。

潰瘍性大腸炎の発症

症状としては、

  • 下痢・軟便
  • 血便・粘液便
  • 腹痛
  • 発熱

を来すことが多いのですが、今回のように症状がなく検診で偶然に見つかることもあります

潰瘍性大腸炎は未治療だと、出血による貧血、狭窄、穿孔、巨大結腸症などを起こし入院や緊急手術となることがあり、

また長期にわたり炎症が続くことで大腸がんのリスクが高くなるため、症状がない場合でも投薬治療を行います。

 

前述のとおり潰瘍性大腸炎を引き起こす免疫細胞の異常がなぜ起こるのかという原因が分かっておらず、根本的な治療が難しいため、

腸の粘膜に起こった炎症を抑え込み、腸を普通の状態に戻すこと(=寛解が治療の目標になります。

ただ、炎症性腸疾患は寛解・再燃を繰り返すことも特徴の一つであり、寛解になったからといって治療終了ではなく、寛解期を維持してくため薬を続けて、病気をしっかりとコントロールしていく必要があります。

潰瘍性大腸炎は約80%の患者さんが5-ASA製剤という内服薬で寛解導入ができるため、まず同薬の治療を開始しました。

 

【経過】

もともと自覚症状がなかったものの、検査時に血液検査で炎症反応の上昇がありそちらを目安に経過を見ました。

投与開始14日目の再診時には炎症反応は消失しており、治療効果を認めました。

潰瘍性大腸炎は寛解状態(症状が消失した状態)になった後も再燃を起こしやすい病気であり、また前述のように炎症状態が長期に続くと発がんのリスクも増加するため、基本的には内服製剤を続け寛解状態を維持していく必要があります。

 

経過を見るにあたり、大腸内視鏡を頻回に行うのは大変なので、

当院では

  • 血液検査による炎症反応のチェック(白血球・CRP・LRG・血沈など)
  • 腹部エコーによる大腸の観察

を積極的に取り入れ簡便にそして正確に状態を見ながら治療を行っております。

 

便潜血陽性は大腸がんだけではなく、今回のように潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の早期発見につながることもあり、若年者の方であっても陽性反応が出た場合には大腸内視鏡を受けることが大切です。

大腸内視鏡と聞くと、「痛い」「苦しい」といったイメージを持たれている方もおられると思いますが、当院は鎮静剤やスコープの調整などの様々な工夫で苦しくない無痛状態で大腸内視鏡をお受けいただけます。

大腸内視鏡検査に不安がある方もお力になれますので是非ご相談下さい。

お電話でのご相談・ご予約は03-5940-3833

文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)

■関連ページ■

参考文献:

1)Sakamoto N, Kono S, Wakai K, et al. Dietary risk factors for inflammatory bowel disease: a multicentercase-control study in Japan. Inflamm Bowel Dis 2005; 11: 154-163

2)Jostins L, Ripke S, Weersma R, et al. Host-microbe interactions have shaped the gene archiyecture of
inflammatory bowel disease. Nature 2012; 491: 119-124

3)Morgan XC, Tickle TL, Sokol H, et al. Dysfunction of the intestinal microbiome in inflammatory bowel disease and treatment. Genome Biol 2012; 13: R79

4)Zorzi M et al Gut 2022;71(3):561-567

 
 

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