コラム“なぜ過敏性腸症候群は治らないのか?繰り返すのか?”
“過敏性腸症候群の治療を受けているが治らない。”
“薬を止めるとぶり返してしまう”
というようなお悩みをよく伺います。
過敏性腸症候群はストレスや体質が関わっており、治りにくく・繰り返しやすく、また症状だけで判断すると実は過敏性腸症候群ではなく、別の病気だったというケースもあり、
適切な診断・状態の把握・投薬を行うことが重要です。
そもそも過敏性腸症候群とは?
原因は?
過敏性腸症候群とは、腸に異常がないにもかかわらず、慢性的な腹痛や便秘・下痢などの便通異常を繰り返す疾患です。
もともと腸の運動は自律神経やセロトニンというホルモンが調整しています。
不安や緊張といった心因的ストレスや、不規則不摂生な生活・過労や気候の変化などの環境的なストレスが続くと、自律神経がうまく働かなくなったり、腸の粘膜からセロトニンが過剰に分泌されたりすることで、腸の運動の調整がうまくいかなくなり過敏性腸症候群が発症するのではないかと考えられています。
また、そうすることで起こる腸の不快感や痛みや便通異常がストレスとして脳に伝わり、さらに症状が悪化するという悪循環に陥りやすくなってしまうのです。
症状は?
- 腹痛、腹部違和感
- 下痢、便秘、または便秘と下痢を繰り返すなどの便通異常
- お腹のはり
- お腹がゴロゴロと鳴る
- 残便感、頻便感
- 急にくる便意
などが過敏性腸症候群では起こります。
特にストレスで増悪したり、通勤・通学途中のトイレに行けない場面・ 会議前・試験前・緊張する場面での腹痛・便意などが過敏性腸症候群ではよく見られます。
検査・診断は?
前述のように過敏性腸症候群とは、「腸に異常がないにもかかわらず慢性的な腹痛や便秘・下痢などの便通異常を繰り返す疾患」です
ですので、血液検査・レントゲン・腹部エコー検査・大腸内視鏡(大腸カメラ)などの検査で他の疾患を除外していく必要があります。
・血液検査:
炎症などの数値、甲状腺疾患の数値などを確認します。
・レントゲン:
腸管のガスの状態や便の溜まり具合などを確認します。
・腹部エコー:
小腸や大腸の粘膜の浮腫みや炎症、進行がんなどがないかを外から見てみます。
・大腸内視鏡(大腸カメラ):
過敏性腸症候群の診断において一番大切な検査になります。
実際に大腸の粘膜の状態を直接見ることが出来、炎症性腸疾患やガンなどの有無、粘膜の詳細な状態を調べ過敏性腸症候群かどうかを診断します。
※当院の大腸内視鏡は鎮静剤を用いて無痛状態でお受け頂けることが可能です
なぜ治らないのか?ぶり返すのか?
生活習慣やストレスの改善が難しい
前述のように過敏性腸症候群は
- 不安などによる心因的なストレス
- 疲れや食生活といった生活習慣に起因する身体的なストレス
- 気温気圧の変化などの環境的なストレス
などよって起こります。
ですので、生活習慣の改善やストレスの改善がないと、症状が治らなかったり一旦薬でよくなったあともぶり返すことが多いのです。
そのため習慣の改善を行うことが大切になりますが、急激な習慣の改善が難しかったりストレス環境が続く場合には、薬を継続的に使用して症状をコントロールする必要があります。
過敏性腸症候群を起こしやすい体質の治療が簡単にはできない
同じようなストレス環境でも過敏性腸症候群を発症する人とそうでない人がいますが、そこには「体質」が関わってきます。
・ストレスに対しての自律神経の耐性
・腸内細菌叢
・腸管でのセロトニンの分泌の程度
これらの体質的な部分はすぐには変えることが出来ないため、一旦薬でよくなった後もぶり返す要因になります。
漢方などを用い長い目で体質を変えていくことも重要です。
薬が合っていない
過敏性腸症候群は自律神経の問題や腸管のセロトニンの分泌の影響など様々な要因が組み合わさって発症し、症状も便通異常や腹痛など症状が多岐にわたるため、原因と症状に合わせて薬を選択しないと治療しているのに改善しないという状況に陥ってしまいます。
診断が間違っている
腹痛やお腹の張り、下痢・便秘などの便通異常などは実は炎症性腸疾患や感染性腸炎、大腸がんなど他の病気でもおこりえます。
過敏性腸症候群はそもそもが「腸に異常がないのに起こる腹痛や便通異常」という疾患のため、大腸カメラなどのきちんとした検査を行い本当に腸に異常がないか、他の病気が隠れていないかを見極めて診断を行う必要があります。
「症状が合致するから」「若いから病気の可能性は高くないから」といって必要な検査をせずに過敏性腸症候群と決めつけていると、過敏性腸症候群ではなく実は他の病気だった、ということがありえるのです。
3.実際の治療例
20代 男性 過敏性腸症候群が治らない
【症状】
数年前から一日数回の下痢と腹痛があり、近医にて過敏性腸症候群と診断され投薬治療を受けていましたが、症状が改善しないととのことで当院を受診されました。
【診察】
下痢や腹痛はストレス時に悪化するとのことであり過敏性腸症候群の症状としても矛盾はありませんでしたが、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性的に腸に炎症を起こす炎症性腸疾患も否定はできない症状でした。
前医では特に検査はせずに症状のみで過敏性腸症候群と診断を受けたとのことで、ご本人と相談し大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行い腸の状態を確認してみることとしました。
【検査】
大腸内視鏡行うと大腸全体に広がる炎症を認めました。
生検を行い内視鏡所見と合わせて潰瘍性大腸炎と診断しました。
【治療】
潰瘍性大腸炎とは、「体内に侵入したウイルスや細菌などの外的を攻撃する免疫細胞(白血球など)が、大腸粘膜や腸内細菌を敵と誤認して攻撃してしまい、大腸の粘膜に慢性的に炎症を起こす病気」です。
大腸に炎症を来すことで、腹痛・下痢・血便などの症状を来します。
実は根本的な治療法が今のところはない難病の一つですが、炎症自体は薬で抑えることが可能で、継続的に薬を使っていく必要があります。
今回も患者さんにご説明し、投薬治療を開始しました。
※詳細は「潰瘍性大腸炎」をご参照ください。
<治療内容>
潰瘍性大腸炎に対しての抗炎症薬(5-ASA)製剤の投与
【経過】
治療開始すると1週間ほどで下痢・腹痛はかなり改善し、2週間ほどで腹痛は消失し、通常便になりました。
状態的には薬で症状が消えた状態=寛解状態となりました。
ただ、先述のように根本的な治療法はなく薬で炎症を抑えているだけであり、この寛解状態を維持するため投薬を継続しています。
(やめると高確率で再燃してしまいます。)
最初に他院で診断された、過敏性腸症候群は「腸に炎症や腫瘍などの異常がないにも関わらず起こる腹痛や便通異常をきたす疾患」です。
ストレスや緊張で悪化しやすいのが特徴ですが、潰瘍性大腸炎も同じように腹痛や便通異常をきたし、かつストレスで増悪することもあり、
症状が合致するからと言って必ずしも過敏性腸症候群とは言えません。
今回のように症状が治らない場合はもちろん、過敏性腸症候群と診断する際にはしっかりと大腸内視鏡などの検査することが重要です。
40代 女性 お腹が張ってすっきり便が出ず何度もトイレに行きたくなる
【症状】
数か月前からお腹が張る・すっきり便が出ず何度もトイレに行きたくなる感覚があり、会社の産業医に相談したところ過敏性腸症候群ではないかと言われ、薬を出されましたが一向に改善なく、当院を受診されました
【診察】
お腹が張る・便がすっきりと出ない要因として、過敏性腸症候群に代表される大腸の蠕動運動の問題の他に、腫瘍などの出来物による大腸の内腔の狭窄や大腸炎、などでも生じることがあり、症状が改善しないこともあり、大腸内視鏡(大腸カメラ)を行い病気があるかどうかを状態を確認することにしました。
【大腸内視鏡検査】
直腸を超えてすぐのS状結腸のに腫瘍を認め、生検にて大腸がんと診断しました。
この大腸がんによって腸の管腔が狭まり、便の通り道が細くなることで一度に便がすっきりと出ない状態となっていました。
【治療・経過】
大腸ガンは早期の状態であれば内視鏡で治療が可能ですが、進行がんの状態になると手術や抗がん剤治療が必要となります。
今回は残念ながら進行がんの状態であり、高次医療機関でCTなどで大腸がんのステージを評価して治療方針を決める必要があり、対応できる医療機関に紹介となりました。
紹介先の病院では遠隔転移はなく、stageⅢ-Aの診断で手術と抗がん剤治療となりました。
S状結腸や直腸に出来る大腸ガンは進行すると次第に大腸の内腔を圧迫するようになり、
- お腹が張る
- 便がすっきりと出ない
- 便が細くなる
- 血便が混じる
など過敏性腸症候群同様の腹部症状や便通異常を伴うことが少なからずあります。
放置しておくと腸が詰まってしまい腸閉塞になったり、ガンの進行に伴い転移を来し命に関わることも出てきます。
大腸ガンによる便通異常は進行することはあっても、ガンを治療しない限りは自然治癒することはなく、たとえ過敏性腸症候群と診断を受けていても、2週間以上便通異常が続いた場合は医療機関で検査を受けることが望ましいと考えます。
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文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)